今月は私たちの世代に関心のある、「老い」について考えてみました。
 ちょっと深刻な捉え方をしていると思われるかもしれませんが、真意はそうではありません。
「老人力」という本がありました。1998年に赤瀬川原平氏が加齢による衰えを肯定的に書いた内容と聞いています。以下の文章も「老いを楽しむ」つもりで読んでいただければと思います。

老いを考える

1.70歳で老いを自覚し始めた
 今年1月に70歳になり、老いを考えるようになりました。なぜ考えるようになったかというと、まず体調に変化が出てきたためです。それと気力も衰えてきたように思います。
 最近毎晩のように足がつります。寝床の中で伸びをすると右足のふくらはぎがつって、強烈な痛みが走ります。ホームドクターに相談しましたが、特に特効薬は無いようです。
 肩の痛みにも悩まされています。痛みをがまんしながら肩をぐるぐる回したりしていますがよくなりません。塗り薬やシップ薬もあまり効果はありません。もう治らないとあきらめています。
 高血圧と心臓病の薬も毎日飲んでいます。
 気力の衰えは集中力の欠如に顕著に現れています。何かやろうとしてもなかなか集中できず、やっと集中する気になっても集中力が長続きしません。すぐ他のことを考えたりします。
 それと誰もが自覚する記憶力の衰えがはなはだしくなってきました。「記憶したことを忘れるのは老化現象だけど、体験を忘れるようになるとボケの始まり」と聞いたことがあります。最近では記憶だけでなく体験も時々忘れます。薬を飲んだかどうか、同窓会などの出欠の問い合わせに返事をしたかどうか、物をどこに置いたか、などを忘れることが多くなりました。 
 気力の衰えはウォーキングにも出てきました。昨年までは毎日1万歩が目標でしたが、今年は8千歩に落としました。散歩していても「もっと遠く」が「もうこの辺で」に代わってしまいました。
 また、都心に出て行くのが億劫になり、面倒くさいことをするのも敬遠するようになっています。

2.老いは死への助走路
 人間はみんな死にます。これは誰にも公平に訪れます。死は突然やってくることもありますが、ほとんどは老いから死にいたることが普通です。
 平均余命という言葉があります。厚生労働省から発表された「平成16年簡易生命表」では次のようになっています。
現在年齢性別平均余命平均寿命
0歳79.0079.00(平成17年)
 85.8185.81(平成17年)
60歳22.1782.17
 27.7487.74
65歳18.2183.21
 23.2888.28
70歳14.5184.51
 18.9888.98
 平均余命というのは、現在年齢の人が平均あと何年生きられるかという年数です。例えば、70歳の男性なら、平均あと14.51年生きて、84.51歳で死ぬということです。なお平均寿命とは0歳の平均余命です。
 平成13年の厚生労働白書によると、平均すれば最後の2年間は要支援期間か要介護期間。人並みに運がよければ私の場合は82歳くらいまでは元気で過ごせるのではないかと勝手に考えています。死への助走路で元気でいられる12年間をどのように過ごすかが私の課題となっています。

3.死は演出できない
 日本映画全盛だった頃、私のふるさと松山の中学を卒業した大友柳太郎という時代劇俳優がいました。殺陣の鮮やかさでは定評がありました。ところが73歳で「老醜をさらして、みんなに迷惑をかけたくない」といって飛び降り自殺をしました。今から22年ほど前のことです。
 それを聞いた時、「人気俳優がどうしてそんなことで死を選ぶのだろうか」と不思議に思いました。しかしその歳に近づいたいま、大友柳太郎の気持ちが分かるような気がいたします。
 しかし、自殺という道は別として、死を演出することは出来ないように思います。突然やってくる死も、病気で覚悟していた死も、生の終結点ではないでしょうか。
 生を演出し、精いっぱい生きたあかしが人生の終結に結びつくのではないかと信じています。

老いを楽しむための12章

 いまから6年半前、平成13年3月の手賀沼通信第36号に「明るく楽しく老齢期を過ごし惜しまれて死ぬための12章」を書きました。
(1)「自立」が明るく楽しい老年期のキーワード
(2)生きがいを持とう
(3)長生きをしようなどとは思わないこと
(4)感謝の気持ちを忘れずに
(5)介護を経験してみよう
(6)地域との繋がりを持とう
(7)ITこそ高齢者のもの
(8)仲間作り、ネットワーク作りを
(9)家族を大切に
(10)健康がベース
(11)準備は若いうちから
(12)人生は楽しむもの
の12章です。定年を迎えた人、これから迎えようとする人へのメッセージでした。60歳代前半の考えを述べたつもりでした。

 今回は「老いを楽しむための12章」です。70歳を迎えた今の考えをまとめてみたいと思います。60代前半とは多少とらえ方が違います。なお、独断と偏見はお許しください。また、以下は私が実行できているということではありません。

1.現状を認めることからスタート
 まず自分の今の状態を肯定することから出発です。いまの自分の年齢、健康状態、経済状態、家庭環境、人とのつながりなどをありのままに認める必要があります。
 元気で平穏に暮らしている人はその状態が1日でも長く続くよう心がけることです。一方、病気や障害を抱えている人は、それと調和しながらうまくカバーしていく方法を考えましょう。高齢になるとどこも悪くないという人はごくまれです。親や配偶者を介護や看護しなければならない人は、介護や看護を優先しながら自分の楽しみを見つけるよう試みてみませんか。配偶者や子供や孫を亡くし、悲しみにくれている人もいるでしょう。悲しみの中から明るい日が来ることを信じて頑張れば、老いの楽しみが見つかるのではないでしょうか。

2.人の役に立つことをする
 人の役に立つことをして人から喜ばれるとうれしくなります。自分の存在価値を感じる瞬間です。
 人の役に立つ方法はいろいろあります。ボランティアをする、孫の面倒を見る、他人の世話をする、同窓会などの幹事を引き受ける、人に教える、街づくりに励む、などそれぞれの立場でやることがあるはずです。
 私の友人に、手品を学んで名人になり、施設や学校を回って手品を演じている人がいます。近所には、町をパトロールしたり、小学生の下校の見守りをしたりしている人が大勢います。尊敬する先輩には、16年前に会を作り、旅行会や映画会を主宰して高齢者を喜ばせている人がいます。孫の幼稚園や小学校の送り迎えを日課にしている人もいます。皆さん楽みながらやっています。

3.上手に大いにお金を使う
 お金は使うためにあります。病気になった時や葬儀のために必要なお金は残す必要がありますが、あとは老いを楽しむために大いに使いましょう。子どもたちにお金を残すことは、遺産相続の争いの種を残すことにもなりかねません。ただ病気や障害の子どもなどを抱えている場合はそのためのたくわえは考えておいてください。
 息子や娘にお金を残すより、生きているうちに子供や孫のためにお金を使いましょう。また、災害の被災者への寄付や、ユニセフなどに寄付するのも上手なお金の使い方です。
 出来れば、生命保険、医療保険、傷害保険などを見直しましょう。いまは長生きする時代、医療保険はお世話になる確率が高くなっています。火災保険や自動車保険も見直すと安くなります。
 資産運用をするなら売買などでリスクのあるものよりも、確実に利息を稼げる商品がいいのではないでしょうか。ただ、いまの日本の預金の利息はお話になりません。内外の投資信託などいろいろ研究することも必要でしょう。
 お金の使い方はそれぞれの価値観により違ってきます。夫婦や家族で話し合って決めることになると思います。次にその使い方を考えてみます。

4.おしゃれをする
 デパートやスーパーに行くと女性の衣料品や装飾品がいっぱい並んでいます。海外旅行に行くとブランドものをいっぱい買ってくる女性が目につきます。女性はおしゃれをしてきれいになると楽しくなるということを知っているからでしょう。
 世の男性もおしゃれをしましょう。歳をとってくるとどうしても見栄えが悪くなります。おしゃれをしてさっぱりとした身なりをすることは、自分が楽しくなるだけでなく、周りの人にもいい感じを与えます。
 そういう私はおしゃれのセンスは全くありません。着るものや持ち物よりもアルコールにお金を使うほうです。でもこれからは自分のためばかりでなく、周りの人のためにも着る物にお金と気を使っていこうと反省しています。

5.好きなものを食べる
 好きなものを食べましょう。味覚は人によって違います。美味しいと思うものを好きなだけ食べてみてはいかがですか。美味しくないのに無理して健康にいいものを食べたり、食べたいものを制限したりすることはないと思います。
 食べず嫌いという言葉もあります。食べたことのない食べ物に挑戦することも大切です。外国に行ったときは進んでその国の食べ物を食べましょう。美味しいものが見つかるかもしれません。
 お酒が飲めなくなって食べ物が食べられなくなったら生きている意味がないという人もいます。元気なうちにいっぱい飲んでいっぱい食べたいと思っています。

6.家を住みやすくする
 私たちの年代では30歳代から40歳代に自宅を購入した人が多いと思いますが、体だけでなく家にもがたが来始めているのではないでしょうか。若い時に作った住宅は必ずしも高齢になったときに便利ではありません。残された時間を快適に安全にすごすためにも、住みやすい住宅に変えましょう。
 子育ての終わった一戸建て住宅を手放して、手軽なマンションを購入するのもいいでしょう。お金のある人は思い切って建て替える人もいます。子どもと一緒に住めるよう、2世帯住宅にするのもいいアイデアです。今までの家に愛着のある人は、手すりをつけたり、バリアフリーにしたり、台所や風呂やトイレを改造したり、暖かくしたりするのもいいのではないでしょうか。また、地震や台風や火災などに備える防災や、空き巣や侵入盗などを防ぐ防犯に強い家にすることも忘れてはなりません。

7.自然と親しむ
 仕事を離れると自由に使える時間が増えます。今まで仕事や子育てに向いていた目を、自然と親しみ、自然を愛でるほうに変えてみませんか。
 山登りをする、ハイキングやウォーキングをする、花を求めて旅をする、魚釣りをする、スキーをする、ゴルフをする、グランドゴルフをする、自然を対象に絵を描く、写真をとる、俳句や和歌を詠む、ガーデニングをする、盆栽をする、野菜作りをする、など自然と親しむ方法はいろいろあります。どれを選ぶかは好き好きです。心と体の健康のためにも自然と親しんでみませんか。

8.美しいものや楽しいものを見たり聞いたりする
 美しい絵画や工芸品を見たり、楽しいお芝居や映画やオペラなどを見たり、楽しく快い音楽を聴いたりすることも大切です。
 今は全国に美術館や博物館があります。そこは高齢者にあふれています。心を豊かにしてくれる美しいものを見るために来ているのです。
 また音楽も心を慰めてくれます。ラジオもお勧めです。テレビはこちらが見る必要がありますが、ラジオはつけていると自然に聞こえてきます。
 NHKのラジオの第1放送で「ラジオ深夜便」という番組を一晩中やっています。時々夢心地で聞いていますが、高齢者に人気があるようです。

9.旅行をする
 旅行にはいろいろな楽しみがあります。知らない土地のことを知る、観光名所を見物する、いろいろな人との出会いがある、その土地の美味しいものを味わう、温泉で心身のリフレッシュをする、珍しいものを買うなど非日常的な楽しみです。
 旅行はいろいろなスタイルがあります。代表的な海外や国内の観光旅行、趣味につながる旅行、家族の慰安旅行、昔の思い出を訪ねる旅行、昔の人の行跡をたどる旅行、心の傷を癒す旅行などいろいろです。健康上の理由や経済的理由で旅行できない人は、最近人気のテレビの旅行番組を見たり旅行記を読んだりして、実際に旅行した気分になることができます。
 配偶者との旅行は二人の仲をいっそう強める効果があります。子供や孫を連れて旅行するとみんなに喜ばれます。そのときは旅費の一部をこちらで負担することにしましょう。
 同じ趣味を持つ仲間との旅行も楽しいものです。目的がはっきりしているからです。私の経験でも、山登りや、つりや、スキーなどの前日の宿での準備、終わったあとのいっぱいは楽しい思い出になっています。

10.本を読む
 本を読みましょう。新刊を買って読むのも楽しいですが、費用を安くあげるには図書館の利用が何よりです。図書館でゆっくり読みたい本を探し、好きな本を何冊も借りてきて、自宅に寝転がって本を読むのは至福を感じるときではないかと思います。
 テレビを見るのはテレビに合わせる必要がありますが、本を読むのはマイペースでできます。読みたいときに読み、くたびれると居眠りをしてもいいのです。
 本は私たちをいろいろな世界に導いてくれます。知らないことを教えてくれます。現役時代は読みたい本を買っても時間がなく、つんどくで終わったことが多かった人も、時間のできた今は思い切り本が読めるはずです。昔読んで感銘を受けた本を読み直すのも楽しいものです。

11.転ばないように気をつける
 高齢者が転ぶと寝たきりになる可能性があります。死ぬこともあります。
 お酒を飲んだりタバコを吸ったりすることは、マイナスもありますがプラスもあります。人に迷惑をかけないかぎり、自己責任で大いに飲んだり吸ったりしていいでしょう。でも転ぶことにはいいことは一つもありません。
 私の父も義父も転んだことがきっかけとなって死に至る病気につながりました。転ばないよう気をつけましょう。

12.そして人生の終末の準備をしよう
 最後は人生の終末を迎える準備です。人生の最後を安らかに迎えるために、もう一つは残される配偶者や子供や孫のために、ぜひ心がけておくことです。
 自分と配偶者のためにすることは、介護をする準備と介護をされる準備です。幸運な人はどちらも経験しなくても済むかも知れません。自分が配偶者より先に突然死をするような場合です。しかし長生きがあたりまえの今、最後は、誰にしてもらうかは別としても、介護されるのが普通ではないでしょうか。
 終末期を施設で迎えたいと考えている人は、事前に施設を調べておくといいと思います。家族に面倒をみてもらいたいと思っている人は、家族との関係を良くしておくのが第一でしょう。経済的な準備も必要です。
 いずれにせよ、できるだけ自立して生きていく姿勢が必要不可欠でしょう。一人で何でもできるように日ごろの生活態度を変えておくことです。そして介護される立場になった時は、素直に現状を受け入れ、感謝の気持ちで介護してくれる人に従うようにしましょう。
 残される人のためにすることは、身辺を整理しておくことと遺言状を書いておくことです。遺産や大切なものの保管場所を、親族に伝えておかなかったため、突然死で残された遺族が、何がどうなっているかわからず途方にくれるということがあります。「夫の大往生、妻の立ち往生」という言葉を聞いたこともあります。
 また、遺言状がなかったため、遺産相続がもめることがままあります。遺言状には書き方の決まりがありますので、その書き方に沿って書いておくようにしましょう。

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