今月は昨年7月の112号に続いて、岩崎任男さんから投稿いただいた「南アフリカの野生動物観察記」をご紹介いたします。
 岩崎さんは元会社の同僚、娘さんのご家族が仕事で南アフリカに駐在されています。

特別寄稿
南アフリカの野生動物観察記

岩崎任男     

 南アフリカ共和国
http://hukumusume.com/366/world/pc/all/167.htmのヨハネスブルク(英語ではジョハネスバーグ)に一昨年(2006年)秋に続き昨年4月23日より5月4日まで二度目の旅行に行ってきた。(第1回の旅行記は112号に掲載) 

 今回は娘夫婦の家族3人とヨハネスブルクからは東に600km離れた、四国がすっぽり入るほどの広大な南アが誇るクルーガー国立自然公園でwww.eic.or.jp/library/pickup/pu060622.htmlその中の1部にある人気の高いサビサビ(SABISABI)私有公園に野生動物を見に行って来た。このサビサビ私有公園には飛行場もあり、想像よりかなり広いものであった。
 インド象と違って気性の荒いアフリカ象、大きな百獣の王ライオン、レパード(豹)、サイ、バファローなど大型の野生動物を見ることができると、出発前から大きな期待を持っていたが、観察に行く車は屋根や囲いのない大型のジープのような車と聞き、襲われる危険性はないのかと不安になってきた。
 多摩動物園のライオンバスのような金網が張ってあって安全な車と想像していただけで、さてどんなことになるのかと出発前は想像もつかなかった。

 ヨハネスブルクから飛行機で1時間のところを、今回は車で平均120km/時くらいのドライブで7時間、着いたのは午後3時過ぎ、予約のサビサビ私有公園リトル・ブッシュ・キャンプ・ロッジに到着した。www.sabisabi.com/#top メインロッジでウエルカム・ドリンクなど飲んでいたら、4時からナイト・ゲーム・ドライブ(注1参照)があるが行かないかとの話があり早速参加することにした。

 初めにガイドから出発前の注意として、フラッシュをたいて写真を撮ってもよいが、車に座ったら大きな声を出したり、立ち上ったり、外に出ないようにとのことであった。
 幌の無い大型ジープのような車で少し走ると直ぐに小鹿に似た角の綺麗なインパラや大きなシマウマがたくさんおり、さらに大きな3頭の象に出会った。

シマウマ

ゾウ
 車はガイドの指示に従って道から離れブッシュを倒しながら象に5mくらいまで接近して見せてくれた。3頭の巨大な象を間近に見て、いつこちらに来て鼻で殴られるかとの不安が襲ってきたが、悠然と木の葉を食べておりこちらには関心を示さず、まずは安堵し感激した。
 サビサビには4か所にロッジがあるが、公園の中に互いに車で20分ほど離れている所に点在しており、泊まったのはその内のリトル・ブッシュ・キャンプ、ここはロッジが6棟あり、12人の宿泊客であった。
 公園内は柵も無く自由に動物が近寄ってくるため、メインロッジから宿泊のロッジに行くには、ライフル銃を持ったスタッフが常に送り迎えをしてくれる。特に夜はロッジへの道に石油ランプがところどころに置いてあるだけで、暗く何時動物に出会うかと不安がつのる。
 夕方は6時くらいから暗くなり、広大な公園内には外灯はまったく無く、暗闇の中を車はガイドが手で持ったサーチライトだけを頼りに、夜行性の動物を探しながら進む。動物の目がライトの反射で光り、それで暗くても存在が確認できるのである。それでも暗闇の中でブッシュに入って行くので、どこからか急に襲われないかと不安が横切り昼間よりはスリリングである。


夜のレパード
 ガイドは流石で、最初に見つけたのは捕らえたインパラを食べ終わって、その傍に満足そうな顔をして横たわった雄のレパード(豹)を見つけ、ブッシュを倒しながら4mくらいまで車を近づけた。
 ライトを照らしカメラのフラッシュをたいてもレパードは全く動ぜず悠然と横になって休んでいるのには、こちらが驚き感動を覚えた。インパラは食われた腹から内臓が出ており鮮血も見え可哀想との声がかかる。弱肉強食の世界なので仕方が無いが、しかし満腹になれば余分な獲物を捕えたり、襲ったりしないのが、動物の世界で、決して無闇に襲っては来ないのである。


レパード
 2日目の夜は5mくらいの高い木の枝に雌のレパードを見つけた。インパラを今まさに食べており、骨を噛むバリバリと音をたてながら食事をしているところで、ガイドもこんな情景は珍しいと言っていた。その枝の下には1頭のハイエナがじっと潜んでおり、レパードが食べ終わって獲物を落とすか、去って行くのをじっと待っている。ガイドによればハイエナは1日でも忍耐強く待っているそうである。ハイエナは犬の仲間で、足にはレパードのような爪が無く、木には登れないので地上で待っている。レパードは木の上に獲物を置いとけば横どりされることがないので安心していられるのだそうだ。次にガイドの指差す方向を見ると、レパードの子供2頭が15mくらい離れた岩の上にいた。
 親が捕ったインパラの獲物を食べたいが、そこに行くまでには木の下にハイエナがおり子供は獲物のある親のいる木に近付けないのだ。その後どのようになったかは知らない。自然界での子育てや食事にありつけるのは厳しいことだとつくづく思った次第である。
 また、ガイドが暗闇の木の枝にフクロウも見つけた。しばらくした後に大きな羽音を立てて飛び去った。

カメレオン
 木の葉にいた15cmくらいのカメレオンも見つけた。葉と同じような鮮やかな緑の色をしていたがよく見つけるものだと感心した。運転手が手に移して見せてくれたが、しばらくすると、周りの闇に似せて体全体が黒く色を変えたのには、これぞカメレオンの特徴かとびっくりした。

 モーニング・ゲーム・ドライブに行きたいと申し込んでおくと、朝は5時半に起こしに来てくれる。まだ外は真っ暗である。ロビーでデニッシュ、クッキーや果物、軽いドリンクの簡単な食事をとって6時に出発する。2日の朝は雨上がりで寒かったので出発前に湯タンポとひざ掛け用の毛布を貸してくれた。
 朝は動物も食事をしており見つけるのには絶好である。小型のインパラやシマウマのようにたくさんいる動物は群れでよく見かけるが、大型の象、サイ、バッファロー、ライオン、レパード、チータ、ハイエナなどの大型の動物は、広大な公園内で遭遇するのは、そう簡単なことではない。限られた道を走って本当に出会えるのかと不安になる。サビサビ私有公園といってもクルーガー国立自然公園の一画であるのでその境には柵は無く動物は自由に行き来できる。
 時々車の先端の椅子に座っているガイドが運転手に急に車を停止させる。土の道に動物の糞や足跡を見つけたのだ。目が輝き車から降りて丹念に観察し、これはライオンの足跡だと言う。それも親子で指で示す方向に向かっていると自信ありげに言う。少し車で走ると確かに雌ライオンが2頭の子供を連れてゆっくり歩いているのを見つけ、先回りして4mくらいまで車を近づけて見せてくれた。ライオンはまったくこちらに関心がないようなそぶりで、ゆっくりと家族で移動していた。


ライオン
 このような大型動物を見つけると、無線で仲間の車に連絡しその車が到着するまでその場にいて、連絡を受けた車が現場に到着すると観察できる場所をゆずり、移動するので、皆が効率よく動物に会える仕組みになっている。それにしても園内は道路標識が一切ないのに、その場所を短時間に車で探して来るのには、これまた感心した。
 少し車を進めるとサイの雄が先頭に1頭の子供を真ん中に、後ろに雌が守って移動しているのに出会った。大きくて風格を感じた。
 バッファローの100頭ぐらいの群れに出会ったが、常に群れで行動し木の葉をもくもくと食べていた。休む時は広い見通しの効く草むらの中ほどにグループで座ってライオンなどに襲われないよう、皆が外側に顔を向け警戒していることもわかった。

サイ
 遭遇するのは珍しいと言われているチータも見ることができた。

チータ
 ゲームドライブは1日2日回、夕方4時から7時、朝6時から9時である。いずれも途中、見通しの良いところで車を止め、ワインや軽い飲み物とビーフジャッキー、クッキーなどでコーヒー・ブレイクがある。食事は帰ってからとる。
 アフリカには多くの動物保護公園があり、普通のサファリで動物を観察できるが、一般には園内は舗装道路があり、そこを車で走って観察することになる。この道路を外れて走ったり車の外に出ることは危険なので禁止されている。そのため動物には近づけず、遠い所から双眼鏡などで観察することになる。
 それに較べて、今回のゲームドライブは私有動物保護公園の中の土のがたがたの舗装道路でない道で、道を外れて車がブッシュを倒しながら進み目的の動物に接近し観察ができるところが大きく違う。それを知らなかったので持って行った双眼鏡は不要となった。また、土の道はわだちがあり、車から放り出されるのではないかと心配することもあるがスリルもある。
 この土の道が動物発見に重要な役割を持っていることもわかった。道に残っている足跡は動物の種類だけでなく、それが成獣か子供か、またどの方向に移動したか、歩いて行ったか、走って移動したか、1頭か群れかなど貴重な判断材料を提供してくれている。
 さらに道路に点々と落ちている糞で、それが何の動物のものかが判断でき、新しいものであれば近くにいることが分かる。
 例えばバッファローの糞は滑らかであるが、象の糞は繊維がたくさん混ざっている。バッファローは牛と同じように4つの胃袋を持っており食べた草を反芻(はんすう)し、顎を横に動かしながら十分噛み砕だいて食べるため糞も滑らかになる。一方、象は草や木の皮を食べるが顎を前後にだけに動かして食べるため、残った繊維はそのまま糞に出てくるので区別がつく。また面白いことに繊維のある象の糞で作った紙をお土産に売っていた。

 今回の野生動物保護地区を訪ねて感じたことは、
出会った大型動物からは怖い猛獣とイメージは一変し、無闇に襲ったり攻撃するのでなく、ゆうゆうと自然の環境で、それぞれのテリトリーや生活の場を確保し、争いも無く自然を楽しんでいるように見えた。
猛獣も小型動物を捕って必要な食事を採れば、決して余分な動物を襲わないし、おとなしく他の動物とも共存している。
大型肉食動物が生存するためには食料となる小型動物がたくさんいること。この園内にはインパラ類は16万頭、肉食の大型動物は数千頭単位でバランスが取れている。
草食動物の5トンもある象は毎日体重の5%、250kgもの草や木の皮をたべるため、保護地区は広くなくてはならず、1年中食料になる草木がたくさん生えていることが必要になる。
大きな木が白くなって倒れているのを多く見かけたが、これは象が木の皮をかじり、幹から出る好物の樹液を舐めるためだと教えてくれた。好物の木もたくさん必要になる。
一方、人間の方がいろいろな資源を乱獲して自然バランスを崩し、環境を破壊し動植物が住みにくい平和から遠い地球に変えているのではないか、と強く思った次第である。

 朝、5時に起きて真っ暗な空を見ると、空に南アフリカ共和国の大きく輝き数の多いこと、天の川、南十字星もはっきり見え、満天の星空を満喫できた。おまけに人工衛星も輝きながら軌跡もはっきり見えたのは幸いであった。
 ロッジの近くにインパラが来るし、親子連れの象も姿を現わしてきた。サルは食堂に入ってき、30cmくらいのトカゲがロッジのベッドの下に隠れるなど、本当に自然の中での生活であった。
 今回の私たちは、3泊4日、7回のゲームドライブでビッグ・ファイブ(注2参照)を全てと、他の多くの動物や鳥に会えたのはラッキーだとガイドが言っていたとおり、幸運で楽しい旅であった。運転手とガイドが4日間を専属で案内してくれ、親しくなりこちらの質問にも親切に答えてくれ理解を深めることできた。
 自然な森の中の素敵なロッジ、食事も専任のシェフにより美味しく、こちらの要望も入れた食事も作ってくれ、中でもインパラのステーキも柔らかく癖もなくおいしかった。
 たくさんな野生動物を想像以上に身近に見ることができ、これまでの海外旅行の中でも最も贅沢で感動の連続であり、最高の思い出となった。

注1) ゲームドライブ:南アフリカでは野生動物観察を「「ゲームビューイング」という。特に車からの観察のことを「ゲームドライブ」と呼ぶ。「ゲーム」はもともと狩猟の獲物の意味であるが、現在は狩猟に限らず、お目当ての動物観察といった意味に使われることが多い。日本では「サハリ」の方が一般的だが、南アフリカでは「ゲームドライブ」が使われることが多い。

注2) ビッグファイブ:南アの代表的な大型動物で、レパード(豹)、バッファロー、ライオン、象、サイ(南アの紙幣の図柄に使用されている)
inserted by FC2 system