今月はいま学んでいる外国語についての乏しい知識をまとめてみました。
 あまり熱心でない生徒の片手間の学習なので、もしかしたら的外れなところがあるかもしれませんがお許しください。

70歳からの外国語勉強

 私はNHKのラジオ講座で、フランス語、イタリア語、スペイン語、中国語の初級講座を勉強しています。月曜日から金曜日までの5日間、朝7時半から8時半までの1時間、1講座あたり15分です。フランス語だけは木曜日と金曜日が中級編なので週3日間です。
 4ヶ国語を学び始めたのは昨年からですが、中国語だけは5年ほど前からラジオ講座を聞き、3年ほど前からは近くの生涯学習センターで台湾出身の先生から教わっています。
 それ以外にはラジオの英会話講座をカセットテープに録音して、散歩の時に聞きながら歩いています。

 フランス語、イタリア語、スペイン語、中国語の初級講座は6ヶ月で終了します。半年ごとに初めて学習する人を対象として初歩から講座がはじまります。今学習している初級講座は学び始めてフランス語は3回目、イタリア語とスペイン語は4回目、中国語は何回目になるか忘れてしまいました。それでもいつまでたっても初級から進歩しません。
 進歩しない理由ははっきりしています。目的がこれらの言葉をマスターすることでなく、楽しく学ぶことだからです。語学は集中的に勉強すればあるところまではいきます。ところが予習も復習もしないで、ただのんべんだらりと学ぶだけではものになりません。4つの言語を同時に学ぶのでなく、たとえ半年でも1つの言語に集中してしっかりやればかなりマスターできると分かっているのですが、あえて同時進行で学ぶことを楽しんでいます。
 進歩しないもう一つの理由は年齢です。歳とともに理解力と記憶力は衰えます。何度同じことを学んでもすぐ忘れます。40の手習いという言葉がありますが、70はなんと言うのでしょうか。承知の上で年齢に逆らいながら無駄を楽しんでいます。

 言葉を学ぶことは、その言葉が話される国や地方の文化を理解することにつながります。新しい発見があります。それも大きな楽しみとなっています。
 まだ表面的な理解かもしれませんが、4つの言語を学び始めてから気がついたことをまとめてみましょう。

1.6つの言葉の位置づけ
 今学んでいる中国語、フランス語、イタリア語、スペイン語と、母国語である日本語、中学から学んでいる英語について、その背景と位置づけを考えてみたいと思います。なお、私は言語学を学んだわけではありませんので、これから述べることは私の独断と偏見が混じっています。お許しください。

 1993年にケンブリッジ大学より刊行された「The Cambridge Factfinder」によるとこれらの言葉の公用語人口は次の通りです。
 第1位  英語    14億人
 第2位  中国語   10億人
 第4位  スペイン語  2億8千万人
 第6位  フランス語  2億2千万人
 第11位 日本語    1億2千万人
 第14位 イタリア語    6千万人
 15年前の数字のため、人口数は低めになっているかもしれませんが、感じはつかめると思います。

 フランス語、イタリア語、スペイン語はラテン系言語と呼ばれていて、大変よく似ています。ローマ帝国の末期にそれぞれの地方の人がラテン語を自分流に変えて発展させたためと言われています。特にイタリア語とスペイン語は兄弟のようによく似ています。フランス語はこれら二つの言語とは、発音や単語などでちょっと距離があります。いわば従兄弟くらいの関係でしょうか。
地図を見るとフランスがスペインとイタリアの間に入っていますが、スペインとイタリアの言葉の方が似ています。理由は分かりません。
英語はドイツ語やオランダ語などとともにゲルマン系の言語と言われています。ラテン系言語とはべつの家系といった感じです。アルファベットを使うことや、言葉や文法や発音などでラテン系言語と共通しているところもあります。
それに比べて中国語と日本語はラテン系やゲルマン系の言語と比べると全く別の人種といった感じです。共通するところはほとんどありません。中国語と日本語は日本語が中国から伝わった漢字を使ったため、その点は似ていますが、文法や発声方法や言葉の組み立て方などはまったく別物です。いわば別の人種が国際結婚したようなものかもしれません。

2.発音が難しい中国語
 中国語は発音が大変難しい言語です。ところが文法はあまり難しくありません。乱暴な言い方をすれば、文法というほどのものはなく、大変大雑把で、よく言えば融通性に飛んだ言葉、悪く言えば繊細さにかけた言葉ではないかと思います。
 日本語のように一つの漢字が何通りもの読みかたを持っていません。ほとんどの漢字の読み方は一つです。ところが同じ読み方でも発音の仕方と言うか音の出し方が4通りあります。高い声、上がる声、低い声、下げる声で、四声といいます。声の出し方で全く違う意味になります。これを覚えるにはルールはなく、どの漢字がどの発音かは丸暗記するしかありません。
 イタリア語とスペイン語の読み方は難しくありません。日本で漢字のアルファベット表記をローマ字というくらい、イタリア語はローマ字の発音に似ています。イタリア語やスペイン語の辞書には発音記号は載っていません。両方の初級ラジオ講座とも発音の練習は数日で終わりました。フランス語だけは発音のルールが違うため、イタリア語やスペイン語より時間をかけて練習します。
 ところが中国語は音の出し方、発音の仕方を1月以上長々と練習します。中国語のテキストには必ず口腔と舌の図が出てきます。近くの中国語講座に通い始めて3年以上になりますが、いまだに文章を声に出して読む練習をしています。
 発音が難しいということは聞くのも難しいということです。簡単な会話は覚えますが、込み入った内容になるとお手上げです。中国語はなぜかタ行の文字が多く、聞き分けるのが大変です。
 読む方は台湾では昔ながらの漢字を使っているため読みやすいのですが、中国では簡体字という一種の省略文字を使っていて、その文字に慣れるのに一苦労です。日本の漢字も簡略化されましたが、簡体字はそれとかなり違っています。
 でも、難しいから学ぶ楽しさがあるのかもしれません。また、漢詩や四文字熟語など日本文化に影響を与えた言葉に出会う楽しみもあります。

3.フランス語、イタリア語、スペイン語の共通点と相違点
 フランス語、イタリア語、スペイン語(以下3ヶ国語とします)に共通する点とそれぞれの相違点をあらわすトピックスをいくつか選んで、英語と比較しながら考えてみましょう。なお、以下はほんの一部の例にすぎません。言葉はもっともっと奥が深いです。

@名詞は男性名詞と女性名詞に分けられる
 名詞は必ず男性名詞と女性名詞に分かれます。この区別は英語にはありません。
 「父」や「兄」が男性名詞、「母」や「姉」が女性名詞というのは分かりますが、「机」や「椅子」や「汽車」や「飛行機」など目に見えるものだけでなく、「愛」や「夢」など目に見えないものも、男性と女性に分かれます。
 イタリア語では名詞はoかaかeで終わります。oで終わる名詞は男性名詞、aで終わる名詞は女性名詞です。一部の例外はありますが99%間違いありません。ところがeで終わる名詞は男性女性両方があります。一つずつ覚えるしかありません。
 スペイン語でもoで終わる名詞は男性名詞、aで終わる名詞は女性名詞です。一部の例外はありますがこれも99%間違いありません。ところがeや子音で終わる名詞もあります。これも一つずつ覚えるしかありません。
 フランス語もうちょっと厄介です。フランス語の名詞の語尾は何で終わるか決まっていません。母音はeで終わる言葉が多いのですが、それ以外の母音で終わることもあり、子音で終わることもあります。フランス語は一つずつ覚える必要があります。
 名詞には単数と複数があります。英語では通常単数にsをつければ複数になります。フランス語とスペイン後は英語と同じくsをつければ複数になりますが、イタリア語は語尾が変わります。男性複数はiに、女性複数はeになります。
 名詞の性と数にあわせて、定冠詞と不定冠詞も違ってきます。まとめると次の表のようになります。
 フランス語イタリア語スペイン語英語
定冠詞
単数男性le, l'il, l', loelthe
女性la, l'la, l'la
複数男性lesi, glilosthe
女性leslelas
不定冠詞
単数男性unun, unouna, an
女性uneuna, un'una
複数男性desunos
女性desunas
 フランス語とイタリア語には複数の定冠詞や不定冠詞がありますが、名詞が子音で始まる場合と母音で始まる場合とで違ってくるからです。
 また、名詞を修飾する形容詞も性と数によって語尾が変化します。そして英語と違って形容詞はほとんど名詞の後に置かれます。

A動詞の変化が大変複雑
 3ヶ国語は動詞の変化が複雑で覚えるのが大変です。動詞の現在形(英語のgo)を例に説明してみましょう。
 英語ではBe動詞は別にして、他の動詞には3人称単数にsかesがつくだけです。ところが3ヶ国語では人称と数によって6通りに変化します。
 フランス語イタリア語スペイン語英語
 主語動詞主語動詞主語動詞主語動詞
動詞の原型 aller andare ir go
1人称単数jevaisiovadoyovoyIgo
2人称単数tuvastuvaitevasyougo
3人称単数il, ellevalui, leivael, ellavashe, shegoes
1人称複数nousallonsnoiandiamonosotoros, nosotorasvamoswego
2人称複数vousallesvoiandatevosotoros, vosotorasvaisyougo
3人称複数ils, ellesvontlorovannnoellos, ellasvantheygo

 英語のgoにあたる、フランス語のaller、イタリア語のandare、スペイン語のirはいずれも不規則変化で、動詞の原型と変化した形はかなり違っています。規則変化の動詞は語幹は変わらない場合が多く、これほど極端な変化はありませんが、人称と数によって6通りに変化することは同じです。
 人称と数によって動詞が変化するため、3ヶ国語では主語が省略される場合が多くなっています。省略しても分かるからです。
 以上は動詞の直説法現在の変化です。ここれでも十分複雑ですが、これで安心してはなりません。
 英語では、動詞は現在、過去、過去分詞の3通りの変化ですみました。時制には現在と過去のほかに、未来、未来完了、現在完了、過去完了などがありますが、これらの時制は動詞と助動詞を組み合わせて表せるため、動詞の変化は3通りだけです。
 ところが3ヶ国語は助動詞との組み合わせもありますが、時制に合わせて動詞そのものが変化する場合が多いのです。
 その上、直説法の表現だけでなく、英語にはない条件法、接続法という表現形式があります。私の学んでいる6ヶ月間の初級講座では条件法、接続法は深く突っ込まないためほとんど理解していません。今回はこの説明は省略させていただきます。

 直説法に絞ってもう少し述べてみましょう。フランス語では現在、半過去、単純過去、単純未来の、6×4=24通りの変化、イタリア語では現在、半過去、遠過去、未来の、6×4=24通りの変化、スペイン語では現在、点過去、線過去、未来、過去未来の、6×5=30通りの変化を覚える必要があります。このあたりも完全には理解していないので間違っているかもしれませんが、辞書に出ている変化はこのようになっています。

B英語にない表現−再帰動詞
 3ヶ国語には英語にない表現があります。それも日常的によく使われる表現です。
 例えば自己紹介は、日本語や英語では、たとえば「私は手賀沼夫です」と言いますが、3ヶ国語では「私は私を手賀沼夫と名のらせる」という言い方をします。通常主語は省略しますが、「私を」という目的語は省略できません。
 「名のらせる」という動詞は再帰動詞、「私を」という目的語は再帰代名詞といいます。
 次のような人の行動などを表現するには再帰動詞を使います。英語では自動詞で表現しますが、3ヶ国語は再帰動詞と再帰代名詞で表現するのです。
 「目覚める」=(自分が自分を目覚めさせる)
 「起きる」=(  〃  を起こす)
 「手を洗う」=( 〃 手を洗わせる)
 「髭をそる」「シャワーを浴びる」「服を着る」「座る」「買う」「疲れる」「気づく」「感じる」「結婚する」「後悔する」‥‥なども同じように「自分が自分を‥‥させる」という形で表現します。

Cユニークなフランス語の数の数え方
 100までの数え方をみてみましょう。
 一番規則的なのは日本語と中国語です。
 英語とイタリア語とスペイン語は似ています。1から10まではそれぞれ独自の表現がありますが、10から19までは1がら9までの数字を変則的に変えて表現します。20以上は大台の数字に1から9までの数字をつけて数えます。例えば21は20と1です。足し算で表されますが、足される数は1から9までです。

 面白いのはフランス語の数え方です。1から69まではイタリア語やスペイン語や英語と同じような数え方です。ところが70から99までがユニークなのです。
 フランス語では足し算と掛け算で表されます。足し算される数は1から9までだけでなく、1から19が加えられます。そして掛け算も登場するのです。そのルールを数式で表すと次のようになります。

 70=60+10
 71=60+10+1
   :
 79=60+10+9
 80=4×20
 81=4×20+1
   :
 89=4×20+9
 90=4×20+10
 91=4×20+11
   :
 99=4×20+19

 石原慎太郎東京都知事がこの数え方に「フランス語は数を勘定できず、国際語として失格」と決め付け、物議をかもしたことがあります。
 フランス語の講座では、数え方を説明する時間が終わったあとも、ときどき講師が言った数を当てるクイズが流れます。イタリア語やスペイン語ではそんなクイズはやりません。フランス人講師は慣れれば問題ないと言っていますが、慣れるまでには時間がかかるようです。

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