手賀沼通信が150号を迎えました。
 平成10年4月が創刊号ですから、150号は12年6ヶ月目ということになります。1回も休まないで出せたのは、皆様の温かいご支援の賜物と感謝しております。
 あと何年続くか分かりませんが、とりあえず200号を目指して頑張りたいと思っております。

 7月17日から27日までにヨーロッパのアルプスに旅行しました。今月はその体験記をまとめました。フランスのシャモニーにも行きましたが、ツアーの名前をとってタイトルは「スイス旅行記」としました。
 日記風の旅行記は、手賀沼通信ブログに「アルプス旅行記」6回を掲載しております。手賀沼通信ブログのアドレスは下記の通りです。
http://ynitta.cocolog-nifty.com/blog/

スイス旅行記

1.ビジネスクラス利用の安い旅行
 今回私と妻が利用したのは阪急旅行社の「全食事付の スイス4大名峰と2大絶景列車の旅11日間 日本航空ビジネスクラス往復直行便で行く!」というツアーでした。
 通常ビジネスクラスはエコノミーと比べると20万円から40万円ほど高くなります。このツアーは同じような日程の他のツアーより10万円ほど高いだけです。以前初めてビジネスクラスを利用したとき、それまで苦痛と感じていた12時間以上かかる飛行機の旅が苦痛でなくなりました。
 阪急交通社からの案内を見て、既に申し込んでいたクラブツーリズムの同じような日程のツアーをキャンセルし、このツアーに変更しました。
 今回のメンバーの中にも同じ理由で私たちと同じことをしたご夫婦がおられたようです。
 なぜビジネスクラスの旅行を安くできたのか考えてみました。ここから先は私の勝手な推測です。正しいかどうかは保証の限りではありません。
 1つはおそらくJALがディスカウントしたのでしょう。JALのミラノ便は今年の秋で廃止されると報道されています。最後に少しでも乗客を増やそうと旅行会社に安く提供したのではないかと思います。
 2つは旅行会社ができるだけ費用をかけないようにしたのでしょう。阪急交通社はツアーの中味を大衆的なトラピックス、やや高級なクリスタル、高級なロイヤルコレクションと3つにランク付けしています。今回の旅行はトラピックスでした。往復の航空便だけビジネスクラスにした感じです。
2大絶景列車はいずれも1等ではなく2等車でした。日程にはアルプス名物のハイキングはなく、その分自由時間が多くなっていました。また現地ガイドは1度もつかず、添乗員がすべてカバーしていました。そのためか添乗員は、添乗経験35年のベテランの崎山幸一さんでした。

2.スイスの自然は絶景、絶景、また絶景
 スイスはまさに絶景の国です。絶景の大安売りといっても過言ではありません。
 旅行2日目はイタリアのミラノから、バスでコモ湖のそばを通ってスイスのティラーノに行きました。ティラーノからはベルニナ特急でサンモリッツに入りました。

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 その間絶景の連続で写真を取りまくりました。ところがその後も毎日新しい絶景が現れます。最初に絶景と感じたものがそれほどでもなく、だんだん絶景中毒になってきた感じでした。絶景の連続に途中写真をとるのを控えたこともありました。しかし最後に極めつけの絶景、マッターホルンが現れてまたデジカメのシャッターを押し続けました。アーベントロートに輝いたとき、ゴルナーグラート展望台から見たとき、逆さマッターホルンを眺めたとき、いずれも忘れられません。家に帰って写真を整理するのが一苦労でした。
 スイスの自然は「山」と「氷河」と「川」と「湖」と「滝」と「お花畑」と「田園」が渾然と組み合わさっています。
 山が高く、U字溝の谷の底に村があるため、スイスをイメージする典型的な写真は、デジカメの横長でなく携帯の縦長のフレームがぴったりです。
 山はモンブランを筆頭に、4000メートル、3000メートル級の山々が聳えています。連山あり、独立峰あり、なだらかな山あり、岩壁の山ありです。
 川は氷河から流れ出る急流や、ローヌ川のように満々と水をたたえゆったり流れる川があります。
 いたるところにある湖も氷河湖とレマン湖のような大きな湖があります。

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 滝は数え切れません。氷河からは無数の滝がかかっています。ウェンゲンとラウターブルンネンの間に大きな滝がありました。その区間は4回も通ったのでしっかり頭に焼き付いています。
 花はそこらじゅうで咲いていました。お花畑というより草があるところには必ず花があるという感じでした。7月後半という時期もよかったのでしょう。
 スイスは色彩も豊かでした。
 ベースは緑です。どこも緑があふれていました。それに空や湖のあざやかな青です。そして氷河湖や氷河から流れでる川は氷河に削られた岩が混じって、灰色とうす緑の濁った色をしていました。

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 山は場所に応じて黒、灰色、青、緑などさまざまです。氷河は白や灰色に輝いていました。
 お花畑が鮮やかな色に満ちているのは言うまでもありません。
 目を引いたのは電車です。私たちが乗ったベルニナ特急と氷河特急は鮮やかな赤、ユングフラウヨッホへの登山鉄道は黄色と緑や黄色と赤のツートンカラーに塗られていました。ゴルナーグラートへの登山列車は渋い赤でした。いずれも夏の緑や冬の白に映える色の電車でした。


3.アルプス観光の目玉は展望台とハイキング
 アルプス観光の特徴はアルプスの山を眺める展望台めぐりとアルプスの山を眺めながらのハイキングです。
 そしてその目玉を支えているのが鉄道とロープウェイです。鉄道には4大特急や登山電車やケーブルカーなどが含まれます。
 今回のツアーでは4ヶ所で展望台に登りました。
 まずピッツ・ベルニナなどのベルニナ・アルプスを眺めるためディアヴォレッツア展望台に登りました。サンモリッツからベルニナ特急とロープウェイを使ってです。展望台からの眺めは文句なしにすばらしかったのですが、ベルニナ特急やロープウェイに乗るのも楽しいものでした。
 ベルニナ・アルプスを眺めるためには、他にピッツ・ネイル展望台、ムオタス・ムライユ展望台、コルヴァッチ展望台があります。それぞれケーブルカーやロープウェイを利用して登ります。
 2番目に行ったのが、ユングフラウ、アイガー、メンヒなどのベルナー・アルプスを眺めるためのユンフラウヨッホのスフィンクス展望台です。そこまでは、ウェンゲンから2本の登山電車を乗り継いで行きました。
 ベルナーアルプスを眺めるには、他にシルトホルン展望台、フィルスト展望台、メンリッヒェン展望台があります。それぞれロープウェイで行けるようです。

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 3番目に登ったのがアルプスの最高峰モンブランを眺めるフランスのエギュイーユ・デュ・ミディ展望台です。シャモニーから2本のロープウェイに20分ほど乗ると3800メートルの展望台に着きます。シャモニーは標高1000メートルほどですから,一気に2800メートルも登るのです。
 そこからロープウェイでイタリアのエルブロンネル展望台に行くことができます。
 4番目にマッターホルンやモンテローザを眺めるためツェルマットからゴルナーグラート鉄道でゴルナーグラート展望台に登りました。
 マッターホルンなどの眺望を楽しむには、他にクライン・マッターホルン展望台やスネガ展望台があり、ケーブルカーやロープウェイを乗り継いで登ることができます。

 日本ではこのような展望台を作るとか、山岳鉄道を作るというコンセプトはありません。ロープウェイやケーブルカーはありますが、スケールが小さく単独のものが多いようです。移動はバスがほとんどです。
 日本アルプスなど山を楽しむ観光はありますが、上高地とか黒部立山アルペンルートとか限られたもので、温泉と組み合わせた観光が多いようです。
 日本には、氷河はなく山も3000メートルを越す山が少なく、観光資源そのものが乏しいというのが最大の理由でしょう。

 アルプス観光にはハイキングが欠かせません。九州より小さい国土にハイキングコースが地球を一周するよりも長く延べ5万kmにわたって整備されています。標識も分かりやすく、道もよく整備されていて、年齢を問わず誰でもハイキングが楽しめます。ハイキングのスタート地点やゴール地点は登山電車やケーブルカーと接続されていて、標高の高いコースでも気軽に歩けるようになっています。
 そして何よりも楽しいのは、雄大なアルプスの絶景を見ながら歩けることと、エーデルワイスをはじめ、数々の美しい高山植物に出会えることです。

 日本では山のハイキングを楽しむというコンセプトはあまり普及していません。ハイキングより山登りという考え方が一般的です。尾瀬の花々を楽しむためには、観光客にはきつい鳩待峠を歩いて越えなければならないのです。

4.堅実な国−スイス
 スイス連邦、通称スイスは連邦共和制国家です。スイスの面積は九州をやや狭くしたほどの小さい国です。人口は約740万人、ちなみに九州の人口は1335万です。740万人のうち約20%は外国人です。
 小さいのに多民族国家で、ドイツ系約65%、フランス系約18%、イタリア系約10%、ロマンシュ系約1%です。したがって公用語もドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語と4つあります。
 道路標識はサンモリッツやインターラーケンではドイツ語でしたが、モントルー近くに来るとフランス語に変わっていました。スイスの人たちは自然とバイリンガルやマルチリンガルになるのではないでしょうか。
 言葉が変われば国名も変わります。スイスはドイツ語ではSchweiz、フランス語ではSuisse、イタリア語ではSvizzera、ロマンシュ語ではSvizraとなります。そのため正式名称にはラテン語が使われ、Confoederatio Helveticaです。略称のCHがよく使われます。
 宗教はキリスト教が大部分を占め、カトリックが約42%、プロテスタント約33%、その他約25%です。
 スイスは永世中立国として有名です。そのためスイスの国際都市ジュネーブには国連の諸機関や世界貿易機関その他の国際機関が集中しています。
 かってスイスは人を傭兵として他国に貸し出すくらいしかできない貧しい国でした。傭兵同士が他国のために戦うようなこともありました。「二度と同胞と戦いたくない」ということから、永世中立が国是として生まれたといわれています。
 スイスは永世中立ですが、日本のように戦争を放棄したわけではありません。国は自分たちで守るという強い信念があります。徴兵制で高度な軍備を備えており、家庭には自動小銃が支給されています。以前は国連に加入していなかったのですが、2002年に加入しました。
 スイスはEUに加盟していません。したがって通貨もスイスフランでユーロではありません。ユーロの通貨危機と関係なくスイスフランは強さを保っています。金よりも堅いといわれるほど、世界でもっとも安定した通貨です。私たちのバスの中でドライバーがミネラルウォーターを売っていましたが、500ミリリットルの水1本が2スイスフラン(178円)か1.2ユーロ(140円)で、スイスフランのほうが高くなっていました。
 スイスの高速道路は無料です。今回訪れたフランスとイタリアでは高速道路は有料でした。無料にしたほうが観光客が集まるのは明らかです。日本で高速道路を1000円の定額にしたり一部無料にして、お盆に大渋滞をきたしたことからも分かります。
 スイスの主要産業は観光、金融、精密機械製造(時計、光学器械)、化学薬品製造です。
 金融業は守秘義務について国際的に有名で、マネーロンダリングにスイスの銀行が使われることが多かったようです。しかし最近ではスイス政府も各国の警察及び金融当局に対して柔軟に対応しており、犯罪収益金の没収等の処置を行い、当該国に一部返還する動きもあるようです。
 今回の旅ではスイスとフランスでちょっとした違いを感じたことがありました。昼食や夕食には飲み物の注文をしますが、ツアー代金には飲み物代は含まれていません。食事が終わった時、ウェイターが飲み物代を集金します。スイスではお釣りを1人1人にきっちり返してくれます。ところがフランスでは、個人でなくテーブルごとに請求したり、お釣りをなかなか持ってこなかったり、小額の場合は勝手にチップにしてお釣りを出さなかったりしたケースがありました。

 「山椒は小粒でぴりりと辛い」スイスを旅してそんな感じを抱きました。日本がスイスから学ぶことがいっぱいあるような感じを受けました。

5.スイスの美しさを守る努力
 スイスはその自然も街も美しさにあふれています。
 手賀沼通信読者の大野耕一さんが2005年5月の手賀沼通信第83号に「スイスの美しさ」と題するエッセイを投稿くださいました。前年の7月にスイス旅行をされたときの体験談です。その一部を引用させていただきます。
『スイスは、こうした自然の美しさに恵まれた国です。だが、その「与えられた美しさ」を保つために、スイス人一人ひとりが並々ならぬ努力をしているのも事実です。
 ツェルマットは、素晴らしい町です。メインストリートを歩いていると、自分が俳優になり、まるで映画のセットの中で演技しているような気分になります。大通りに面した家々は、シャレー風の木造づくりで統一され、窓という窓には必ずといっていいほど、赤やピンクや白のゼラニュウムの花などが飾られています。
 見る側の私たちには非常に心地良いものですが、管理する方はその手入れが大変のようです。まず花選びから始まって、朝晩二度の撒水は欠かせないので、なかなか外泊することができないという話を聞きました。花や庭の手入れに関しては、市町村の条例や環境保護団体の規則などによって、細かく規制されています。住宅の建て方(外壁に占める木材の比率、屋根の材質、仕様)、洗濯物の干し方(通行人から見える場所には洗濯物を干さない等)なども、市町村の条例で定められているそうです。(中略)
 町並みも、それを構成する民家も、教会も、牧草地も、森も、それらはみな人が作ったものです。スイスの美しさは、「与えられた美しさ」であるとともに、「作った美しさ」でもあるのです。』
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 私たちが泊まったウェンゲンとツェルマットはガソリン自動車の乗り入れが禁止されていました。ウェンゲンでは電気荷車が、ツェルマットでは電気自動車と馬車が大活躍でした。一方フランスのシャモニーは車であふれていました。駐車場不足を解消するため、道路の真ん中を駐車場にして、その両側を車が通っていました。

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