今月は本作りを勧められたお話です。文芸社から本の出版を提案され断りましたが、その顛末と、本を出版する方法をまとめました。
 私たちの年齢になると、本を出版する人が見られます。その方々には参考になるかもしれません。

本の出版を勧められ断った

1.文芸社から突然の電話があった
 平成22年12月、文芸社の文化出版部の人から突然電話がありました。
 我孫子図書館で私の手作りの本「手賀沼通信 こだわりの記事」を拝見したが、文芸社の出版物として全国流通できるかどうか審査させていただきたいというのです。
 文芸社では無名の人の文章を審査して、出版に値するかどうかを決め、優れているものは文芸社の費用負担で出版して全国の書店に流し、それに次ぐものは著者の費用負担で全国の書店に出すとのことでした。

 じつは手賀沼通信が50号、100号、150号になった時、それまでの手賀沼通信の記事の中からいくつかを選んで本にしました。50号と150号のときは私の書いた旅行記を集めて、それぞれ「未知との遭遇」「未知との遭遇 パートU」というタイトルで出しました。100号のときは旅行記以外のこだわりの記事を「手賀沼通信 こだわりの記事」として出しました。
 横書きを縦書きに直し、パソコンのプリンターで印刷、文具店でコピーして、二つ折りにし、自分で製本した文字通り手作りの本です。30部とか50部しか作れなかったので、一部の方にしかお渡しできませんでした。
 なお、同じ内容を再度横書きに直して、ホームページ「手賀沼通信バックナンバー」に掲載しております。

 審査するだけなら特に問題ないと感じたので文芸社にはOKと返事しました。そしてホームページ「手賀沼通信バックナンバー」を紹介し、その中に載せている2冊の本「未知との遭遇」「未知との遭遇 パートU」についても参考になるかもしれないと話しました。
 ただ、私の書いたものをお金を出してまで読んでくれる人がいるとは思わない、また、私のほうで費用負担して本を出すつもりはない、と付け加えました。
 文芸社の担当者は丁寧で大変感じのよい人でした。わざわざ審査してもらってもこちらが出版しなかったら無駄骨になります。そうなっては申し訳ありません。それでも担当者からは審査させてほしいとの返事が返ってきました

2.審査の結果の手紙が届いた
 平成22年12月28日、文芸社から分厚い資料が届きました。内容は、「担当者からの手紙」、「作品講評」、「文芸社出版システムのご案内」でした。
 担当者からの手紙の概要は以下の通りです。有料での出版を勧める内容でした。
1  ただ、有料の場合、出版の費用がどれくらいかかるかはどこにも書かれてはいませんでした。おそらくその後の話し合いのなかで出てくるのではないかと感じました。

「拝啓 (前略)
 さて、弊社の出版システムは、書店との長年に渡る強固な関係を背景とした提携300書店への配本・陳列をはじめとして、他社の追随を許さない充実したサービスや業界初の制度を取り入れており、これまで15000人以上の方にご利用いただいております。
 弊社からの出版に際しましては、書店での販売を前提としておりますので、一般流通書籍としての適否(公共性)を審査いたします。また同時に、完成度や表現力だけに左右されない作品性を見極めるための独自の基準を設けており、これまで培ってきたノウハウを用いて判断しております。
 お寄せいただいた御著作に関しましては、原稿審査担当部署にて丁重に拝読した結果、弊社の出版物として全国流通できると判断されましたことを、まずはご報告申し上げます。毎月限定で提供している無料出版(特別企画書籍)枠での選定には至らず、有料での出版案内となりますが、御著作と未知の読者との出会いの場をご提供出来ますことを担当者として嬉しく思っております。
 (中略)
 お手紙やお電話だけではなく、対面にてご質問やご相談に応じさせていただき、ご納得いただいたうえで弊社の出版システムをご利用いただければと思っておりますので、新田さまのご都合さえよろしければ、ぜひご来社賜りますようお願い申し上げます。
 (後略)                                    敬具」

3.作品講評はほめすぎだった
同封されていた作品講評は50号、100号、150号の3冊の記念誌を対象としたもので、4つのポイントに分かれて記されていました。かなりほめすぎでした。
 ご紹介するにはちょっと面映ゆく、自慢するような感じで心苦しいのですが、文芸社としては著者をその気にさせなければビジネスにつながりません。文芸社の上手なテクニックを知っていただくために、あえてそのまま載せたいと思います。

「 *作品講評*
●著者が発行している個人新聞「手賀沼通信」の中から代表的な記事を精選し、再構成したダイジェスト版である。(中略)
 文章を通じて自身の体験や思いを発信してゆきたい、人々と共有したいという著者の熱意をまずは評価したい。
●ダイジェスト版として編まれた本作は、50号・100号・150号の各記念誌の3分冊から成る。その中でも多くを占めているのが紀行文である。
(中略)
 旅のだいご味を実に生き生きと伝えてくれる紀行文集である。
●著者の豊かな海外旅行体験に裏打ちされた有益なアドバイスが披露されているのも特徴である。
(中略)
 150号記念誌の巻末では紀行文の書き方も指南されており、今後、紀行文をものにしようという読み手にとっては親切なアドバイスである。
●著者の確固たる人生観と世界観に裏打ちされた作品であり、「手賀沼通信」発刊の長い道のりを顕彰するという意味でも是非、この機会に1冊の書籍としてまとめることをお勧めしたい。以下、その点を前提にして若干のアドバイスと指摘をしたい。まず、さまざまな分野に対する記述が盛り込まれているために、それをそのままストレートにつづると、雑駁な仕上がりになってしまうことが懸念される。そこで、今回送付分(私が送付したわけではありません。文芸社で見つけたのです)の3分冊のうち2冊までが紀行文としてまとめられていることを勘案すると、著者の紀行文集として書籍化することが一案として考えられる。ただ残念ながら、個々の旅行記の記述は簡略にまとめられているため、それぞれの全貌を知ることは難しい。代表的な旅行記5、6編を精選した上で、著者の旅の行程がより分かりやすい形でまとめられると良いのではないか。それぞれの訪問先に対する著者自身の所管も盛り込んでほしいところである。今後は編集者のアドバイスも取り入れた形で作品の再構成を図り、全国出版の運びとなることを期待したい。」

4.経験者に聞き本屋で調べてみた
 元日本IBMの同僚で手賀沼通信読者の木澤さんと大川さんが以前本を出版されました。お二人とも日ごろから中国の大学での日本語講師の体験を文章にまとめて、友人や知人に送っていました。それをもとに本を書かれたのです。たまたま木澤さんの本の出版社は同じ文芸社でした。
 文芸社から資料が届いたとき、参考のためにお二人から本を出した時のいきさつや事情をいろいろ教えていただきました。ところが私の場合とは大きな違いがあるということに気がつきました。
 お二人は中国での体験そのものが貴重なもので、読者をひきつける内容がいっぱいあるということと、お二人のほうから本にするよう出版社に働きかけたということでした。
 私の旅行記はごくありふれた旅行について書いたもので、読者にとっては珍しいものではありません。また、私が望んで本にしたがっているわけではないため、取り組み姿勢が違っていました。
 文芸社の出版システムは後で詳しく述べますが、本が書店にどのように並んでいるかを調べてみました。説明では全国の300の書店に1冊ずつ配本され1月間置かれるとなっていました。神保町に行ったついでに「三省堂」を覗くと、1階に文芸社コーナーがあり、1冊ずつ100冊ほど並んでいました。近くの「書泉グランデ」にも文芸社コーナーがあって30冊ほど並んでいました。
 柏の「浅野書店」と「新星堂」にも文芸社コーナーがありました。偶然でしょうが、それぞれ100冊と30冊ほどの本が並んでいました。私の住んでいる我孫子の最大の書店の「ブックエース」には文芸社コーナーはありませんでした。300の書店には入っていないのでしょう。
 1部しかない本が売れた場合、書店では文芸社に連絡して補充するのでしょうか。私が本を出したとしたら書店で売るのはかなり厳しいのではないかと感じました。

5.出版するのを断った
 資料が届いた後、しばらくして担当者から電話がありました。出版に向けての話し合いを進めたいとのことでした。
 私はまず手紙や作品講評や資料を送ってもらったことにたいしてお礼を申し上げました。そして、具体的な話し合いに入る前に、「出版するつもりはなく、お断りしたい」と伝えました。
 理由として次のことを申し上げました。
・私の旅行はごく一般的なツアーであり、読者にとって興味をひくものではない。旅行記もお金を払ってまで読んでもらえるような内容ではない。
・自分のための本作りという観点では、すでに手作りの本を3冊作っているので、たとえきれいな本でも新たに本を作るつもりはない。
 作品の講評までしていただいた文芸社の方には申し訳ないと感じています。

文芸社の出版システム

 文芸社から手紙と作品講評とともに、「文芸社 出版システムのご案内」が届きました。以下その内容を要約します。文芸社のホームページでも同様の内容が出ていると思います。

1.出版委託金のお支払
 弊社では、御著作の製作から販売・宣伝に至るまでの出版サービスをご提供しており、その代金として出版委託金をお支払いいただきます。お支払方法やお支払い時期などにつきましては、別紙お見積書にてご説明させていただいております。

2.プロの編集者による個別対応
 プロの編集者が著作者と二人三脚で本作りを行います。微妙なニュアンスやデリケートな表現など、ご一緒に相談しながら作品を仕上げてゆきます。
 *制作部数証明書とは、「ISBN」「書名」「著作者名」「発行日」「制作部数」を記載したもの。過不足なく書籍が制作されたことを証明する。印刷会社が発行し、その写しを弊社が著作者に送付する。

3.印刷部数(著者贈呈部数、弊社見本部数、流通用部数)
 印刷部数は1000部(冊)です。印刷部数の内訳は、著者贈呈部数が100部(冊)、弊社見本部数が50部(冊)、流通用部数が850部(冊)となっております。著者贈呈本につきましては、ご友人・お知り合いに贈呈・販売したり、お知り合いのお店(書店を除く)に置いていただりたりと、御著作の宣伝にご活用ください。
@贈呈本の取扱い
贈呈本は書店に置くことはできません。書籍は取次店を通して書店に流通させるルールになっております。
A弊社見本本の取扱い
弊社見本本につきましては、社内使用見本、取次会社への提出用見本、国会図書館への納本などに使用させていただきます。
B流通本の取扱い
流通用部数(冊数)のうち、提携書店へ配本される300部(冊)以外は倉庫会社にて管理され注文を待つことになります。この流通用残部(550部)につきまして、著作者ご本人またはお知り合いから弊社販売部にご注文いただいた場合は、本体価格(税別)の75%でお譲りしております。

4.全国流通
 弊社書籍は、私家本と異なり、流通を前提としておりますので、ISBNコード(国際標準図書番号)および書籍JANコード(バーコード)を付与することで、書店から注文を受けることはもちろん、トーハン・日販などの主要の「取次」を通して流通に乗せ、全国規模で書店に配本することができます。

5.刊行(流通開始)時期
 御著作の刊行(流通開始)時期は、出版契約が締結されてから、6〜7か月後となります。

6.提携書店への配本
 出版業界の現状として、出版社が書籍を次々に刊行することに比して(年間約75000点)、書籍を置く書店の数は年々減少しています(2009年15000店)。そのために、書籍を刊行しても書店に並ばない、書店に置かれても数日で返品されるということがどうしても生じてしまいます。
 弊社は、紀伊国屋書店・三省堂書店・ジュンク堂書店などの大型書店から中小型書店まで、全国1100を超える有力書店と業務提携して、弊社書籍の陳列スペースを確保し、一定期間返品せずに販売する約束を取り交わしています。提携書店の中からセレクトした300書店に各1冊ずつ、1ヶ月間の陳列が可能となります。陳列される前月に、配本書店の一覧表をご送付いたします。

7.紀伊国屋書店、文教堂書店での常備陳列
 紀伊国屋書店(約5店舗)と文教堂書店(約5店舗)に御著作の1年間常備陳列を行います。期間中に書籍が売れた場合は必ず補充されます。

8.文芸社流通センターにおける在庫管理
 弊社から全国出版される書籍は、印刷・製本後に文芸社流通センターで管理され、取次会社を経て全国の書店に配送されます。

9.国立国会図書館への納本、永久保存
 国立国会図書館は、日本国内で出版されたすべての出版物を収集・保存する日本唯一の法定納本図書館です(蔵書数2000万点以上)。弊社の書籍も1冊納本されます。

10.インターネット書店での流通
 御著作は、アマゾン、Yahoo!ブックス、楽天ブックス、セブンネットショッピング、紀伊国屋書店などで運営しているインターネット書店でもご注文、ご購入いただけます。

11.宣伝用チラシ
 贈呈本のご送付から約2週間後に、宣伝用チラシをお届けいたします。そのまま書店へ提出できる注文書にもなります。

12.新聞広告掲載
 毎日新聞の連合広告に1回掲載されます。広告掲載の日程については、事前にお知らせいたします。また掲載後に掲載誌をお送りいたします。

13.マスコミ・書店への新刊情報提供  1000のマスコミに御著作のデータを送付します。希望があれば献本します。全国の1000書店に、御著作の案内のダイレクトメールを送付します。
 1000のマスコミに御著作のデータを送付します。希望があれば献本します。全国の1000書店に、御著作の案内のダイレクトメールを送付します。

14.著作権使用料(印税)のお支払
 初版第1刷より流通対象となるすべての部数に対して印税をお支払いいたします。第2刷、第3刷になれば印税率が向上します。

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