今月は我孫子市とその近辺で大人気の大人の学習塾「ふれあい塾あびこ」の公開講座についてご紹介いたします。もうひとつのテーマは佐伯泰英の小説について、先月書ききれなかった分です。

「ふれあい塾あびこ」の公開講座

 私は「ふれあい塾あびこ」の公開講座で学んでいます。
 手賀沼通信を書き始めたころは、61歳で好奇心旺盛、定年退職で時間ができたことがうれしく、いろいろなセミナーや講演会などに、憑かれたように参加していました。××大学に申し込んだり、株主総会などにも顔を出していました。
 今ではお勉強の会はこの公開講座だけです。

1.「ふれあい塾あびこ」の公開講座とは
 「ふれあい塾あびこ」の公開講座は、シニア世代のための学習塾のNPO法人「ふれあい塾あびこ」が主催する講座です。
 開塾5周年を記念して、平成17年9月から毎月1〜2回、我孫子市生涯学習センター「アビスタ」で開催されています。
 特徴はいろいろな分野から多彩な講師を招いていることです。また、テーマを決めてシリーズものとして開かれることもあります。
 原則月曜か木曜日、1回1時間30分、受講料は1回700円です。

2.今まで出席した公開講座
 私が参加した公開講座をまとめてみました。開催された講座の6割くらいは出席していると思います。これ以前にも数回出席した記憶はありますが、記録していません。

ふれあい塾我孫子
日時タイトル講師(敬称略)
2007年5月10日利根川の山からヒマラヤへ山岳写真家 鈴木菊雄
10月15日大岡越前守の関与した手賀沼えび・ざこ漁藻草取入会訴訟元最高裁判所長官 山口繁
11月29日いい視力をいつまでも日赤医療センター名誉院長 増田寛次郎
12月20日中国はどうなる?北京オリンピック後は?麗澤大学教授 三潴正道
2008年3月24日ついに走り出した巨象・インド日印協会理事長 平林博
4月17日ロシアの現況と周辺諸国の動き環日本海経済研究所理事長 吉田進
6月23日レクチャーコンサート バイオリンとピアノで行くヨーロッパ旅行バイオリン:アンナ・スタルフスカヤ ピアノ:西嶋みどり
7月17日江戸という時代B 公事吟味の心得−江戸裁きの心構え元最高裁判所長官 山口繁
12月4日岐路に立つ中国と今後の日中関係麗澤大学教授 三潴正道
12月15日レクチャーコンサート 「椰子の実」から始まる世界旅行ソプラノ:矢口智恵 ピアノ:川瀬葉月
2009年1月15日オペラを10倍楽しむ法「オペラってこんなに面白い」音楽評論家 國土潤一
2月5日江戸という時代I 江戸の教育システムNPO法人江戸しぐさ副理事長 桐山勝
3月9日江戸という時代K お金儲けと江戸の火事−江戸の格差社会立正大学非常勤講師 高尾善希
3月19日わが文壇回想記作家 坂上弘
3月26日世界同時不況下で激変する中国経済と今後の方法麗澤大学教授 三潴正道
5月7日続・ブナの山旅ブナ博士 坪田和人
5月18日レクチャーコンサート 「平家物語」ほか薩摩琵琶奏者 那須錦鈴
6月4日レクチャーコンサート 「ポケットに入るオーケストラ」−ハーモニカの調べハーモニカ奏者 藪谷幸男
6月11日増える大腸がん−診断と治療およびその予防東葛辻仲病院長 辻仲康伸
7月9日金融危機と暮しセブン銀行社長 安斎隆
7月16日我孫子市ゆかりの人<シリーズ1>「柳田國男と我孫子」筑波大学大学院教授 伊藤純郎
9月3日印度の世界遺産−神々への賛歌日印協会理事長 平林博
9月14日江戸という時代N 根戸村5人組御仕置帳などを通じて見る草の根民主主義元最高裁判所長官 山口繁
10月15日レクチャーコンサート 華麗なるモーツァルトの音楽ピアニスト 大澤絵美
11月9日我孫子市ゆかりの人<シリーズ2>「我孫子と岡田武松」筑波大学大学院教授 伊藤純郎
12月3日大人の音楽イージーリスニング季刊誌「アナログ」執筆者 桑本洋
12月14日江戸という時代N 江戸商人が読んだ経営書のベストセラーNPO法人江戸しぐさ副理事長 桐山勝
2010年1月7日新春ピアノコンサート シューマン、心の響き−生誕200年によせてピアニスト 聖徳大学音楽部教授 原佳大
1月14日江戸という時代O 名主日記からみた江戸時代立正大学非常勤講師 高尾善希
1月18日アビコの歴史と文化を楽しむC 我孫子の移り変わり、大正から平成へ我孫子の文化を守る会前会長 三谷和夫
2月8日Janones Garantido(信頼される日本人!)サンパウロ大学教授 二宮正人
2月25日レクチャーコンサート チェロ、平和を愛でるチェロ:山崎葉子 ピアノ:清水瑞穂
3月4日アフガニスタン−定年後、地雷除去に取り組んでJICAコンサルタント 標昌充
4月5日江戸という時代Q 囲碁家元本因坊家文書の世界立正大学非常勤講師 高尾善希
4月12日ヒマラヤ道中記と写真作品日本山岳写真協会理事 鈴木菊雄
4月19日柳宗悦を支えて−声楽と民芸の母・柳兼子の生涯著述家・声楽家 小池静子
5月17日我孫子市ゆかりの人<シリーズ5>「瀧井孝作と我孫子」日本文芸家協会理事長 作家 坂上弘
6月6日「擬人用いず、用人疑わず」サムソン創業者・李ギョンチョル伝元日本経済新聞社取締役 山崎勝彦
6月10日江戸という時代R 落語に見る江戸の人情NPO法人江戸しぐさ副理事長 桐山勝
6月21日”友人・知人の範囲が一挙に広がる”「ツイッター」イー・メディア代表取締役 平野浩
7月29日バイオリンとお話で綴る−ブダペストからの音楽便バイオリニスト 井上奈央子
9月13日ブラジルからみた祖国日本、この10年イビウナ庵主(元三井物産ブラジル社長) 中村尅
10月4日危機に立つ人類・地球・文明−経済人(ホモ・エコノミクス)から知足者(足るを知る人)へ元最高裁判所長官 山口繁
10月7日江戸という時代21 浮世絵の歴史とその楽しみ方NPO法人江戸しぐさ副理事長 桐山勝
11月8日江戸という時代22 江戸は何処から何処までか−都市江戸の領域を考える立正大学非常勤講師 高尾善希
11月15日年金運用/金融政策年金積立金管理運用独立法人 前理事長 川瀬隆弘
12月2日レクチャーコンサート 秘曲にまつわる伝説・物語薩摩琵琶奏者 那須錦鈴
12月6日仏教伝道の歴史G”念仏を広めた”「空也と源信」二松学舎大学非常勤講師 高山秀嗣
12月13日レクチャーコンサート マリンバの世界マリンバ 針生公博  ピアノ 濱野由佳
12月20日江戸という時代23 川柳に見る女の一生NPO法人江戸しぐさ副理事長 桐山勝
2011年1月13日新春ピアノコンサート モーツァルトとショパンほかピアニスト 聖徳大学音楽部教授 原佳大
1月17日志賀文学と我孫子@「暗夜行路」連載90年 3回シリーズ文芸評論家(元中央学院大学教授) 早川雅之
1月20日江戸という時代23 幕末史を考える-外圧の危機と政治体制を考える立正大学非常勤講師 高尾善希
2月7日大学の現状を斬る!大学評価・学位授与機構教授 荻上紘一
2月17日岐路に立つ中国−繁栄の道か崩壊の序章か麗澤大学教授 三潴正道
3月10日立松和平「遠雷」を読む−列島改造がもたらした家族崩壊東洋大学文学部教授 石田仁志
4月4日仏教伝道の歴史H−鎌倉仏教@−「法然」二松学舎大学非常勤講師 高山秀嗣
4月11日布施弁天と東葛の歴史布施弁天(紅龍山東海寺)住職 下村法之
4月14日新内節の俊英が奏でる志賀直哉の「和解」新内節奏者 新内剛士
4月21日切らずに治す血管内手術名戸ヶ谷病院脳神経外科医師 熊坂昭
5月9日仏教伝道の歴史I−鎌倉仏教A−「親鸞」二松学舎大学非常勤講師 高山秀嗣
5月12日江戸という時代24 ワンワン道中記立正大学非常勤講師 高尾善希
5月23日レクチャーコンサート‥リズムの魅力をマリンバで実験元NHKティンパニー奏者 有賀誠門
6月20日地震と文学−われわれはどう備えるべきか文芸評論家・法政大学教授 川村湊
6月23日医薬品の副作用名戸ヶ谷病院薬局長 村山一弘
6月27日唐文化の日本に与えた影響東洋大学アジア文化研究所客員研究員 菊池良輝
7月4日岡本かの子の世界文芸評論家(元中央学院大学教授) 早川雅之
7月11日チベットの自然と人々日本山岳写真協会理事 鈴木菊雄
7月14日江戸という時代25 高田屋嘉兵衛NPO法人江戸しぐさ副理事長 桐山勝

「佐伯泰英の小説」補足

 手賀沼通信先月号では、佐伯泰英氏のプロフィール、各シリーズの紹介、各シリーズで刊行されている本などについてまとめました。
 今月は佐伯泰英氏本人の言葉と、文庫本の最後に載っている解説者の言葉をいくつかご紹介いたします。

1. 佐伯泰英氏、己を語る
 「鎌倉河岸捕り物控読本」で文芸評論家の細谷正充氏とのインタビューからの引用です。
・時代小説を書き始めたきっかけ
「要は時代物で行き詰ったということです。引導を渡されました。4冊続いたシリーズが、これ以上はちょっと無理だとある出版社から言われて、私があまりに気落ちしていたからでしょう、編集者が、佐伯にはもう残るは官能か時代小説ですねといわれた。それがきっかけです」
・最初の時代小説
「『密命』です。1999年だったと思います。『密命』がなんとも不思議なことに、増刷の声がかかったのです。僕の作家人生の中で初めてです」
・シリーズについて
「どのシリ−ズでもそうですけど、3、4作目までは手探りです。展開も登場人物もはっきりとしていませんしね。でも、3、4冊続けて書くと分かるんです。この方向でいいというのが」
・1作何日ぐらいで書くか
「大体、20日から21日ぐらいですね。去年、おととしもそうだけど、年間書下ろし15、6冊のペースじゃないですか、今年もそんなものでしょう」(2006年7月収録)

2. 解説者の語る「佐伯泰英の小説」
 光文社出版のシリーズには最後に解説がついています。どれも味のある解説です。その中からいくつかを選んでその一部をご紹介いたします。この解説はそれぞれ別の5人の文芸評論家の筆になるものです。

(1)吉原裏同心シリーズ10「沽券」の解説
 佐伯泰英はあるインタビューの中で、事実上の時代小説第1作となった「密命−見参!寒月霞斬り」について、「参考にした作品などはあるのですか?」という問いに、「はっきりあります。藤沢さんの『用心棒日月抄』を私なりに書けないかなと思いました」と答えている。
 ちなみに、時代小説ファンの間で佐伯泰英は、今や、池波正太郎と藤沢周平を全部読んだ読者が次に読み始める“第三の男”となっている。
 幹次郎と汀女が暮らしていた豊後岡藩(他の作品を当たると「密命」シリーズでは豊後相良藩、「居眠り磐音」シリーズでは豊後関前藩、「酔いどれ小籐次」シリーズでは豊後森藩が物語の発端であり、このうち岡藩と森藩は実在である)周辺が、佐伯泰英における“海坂藩”であることは、もはや、いわずもがなのことであろう。

(2)吉原裏同心シリーズ11「異館」の解説
 作者の趣味か、出版社の意向かは知らないが、佐伯泰英の小説は、漢字二文字のタイトルが多い。「密命」「古着屋総兵衛影始末」「交代寄合伊那衆異聞」、「吉原裏同心」シリーズは、どれもがタイトルが漢字二文字である。また「狩り」シリーズも、漢字二文字の後に“狩り”がつくものであり、漢字二文字タイトルの変形といえるだろう。
 これほど漢字二文字のタイトルが多いと、どれがどれだか混乱するのではないかと、私の本棚に並んだ佐伯本を見た知人からいわれたことがある。だが、そんなことはない。作品を読めば、その内容を凝縮したタイトルが付けられていることがよく分かるのだ。ためしに本シリーズのタイトルを、ちょっと並べてみよう。「流離」「足抜」「見番」「清掻」「初花」‥‥。どれを見てもすぐに作品の内容を思い浮かべることができるではないか。

(3)吉原裏同心シリーズ12「再建」の解説
 「週刊朝日」が初の試みとして実施した「2009年歴史・時代小説ベスト10」を見て驚いた。何と1位が“文庫書下ろし”の高田郁「八朔の雪」であったことだ。
 快挙であることは確かだ。“文庫書下ろし”という分野の底辺の広がりと、質が向上していることを物語るものであるし、認知度が飛躍的に高くなりつつあることの証左であろう。
 ただ、その一方で釈然としない思いも残った。別にいちゃもんをつける気はないのだが、それなら佐伯泰英「異館 吉原裏同心(11)」がベスト10入りしてなんら不思議はない、という思いがあったからだ。シリーズものの途中ではあるが、独立した読み物としても出色の出来栄えとなっている。佐伯作品が書評などでは無視されがちな“文庫書下ろし”でありながら、長きにわたって多くの熱い支持をとりつけてきたのは、シリーズものでも一作一作が入魂の作品であるからだ。

(4)夏目影二郎始末旅シリーズ2「代官狩り」の解説
 この作者の時代小説は、本書に限らず主人公ら登場人物の人物造型と、作品背景となる時代状況に独特の親和性が感じられ、特徴の一端を形成しているようだ。
 影二郎(このシリーズの主人公)が活躍する時代は、本書では天保9年(1838年)に設定されている。天保といえば同2年(1831年)以来の、未曽有といわれた大飢饉のため、全国各地に百姓一揆や打ちこわしが頻発した時代であった。
 大阪町奉行所配下の与力大塩平八郎の窮民救済のための蜂起、越後の生田万の乱も天保8年(1837年)である。
 上州の義賊国定忠治が一貫して登場し、陰で英次郎と助け合うのだが、この忠治もまた別の意味での象徴的表象としての役割を負わされているようである。

(5)夏目影二郎始末旅シリーズ4「妖怪狩り」の解説
 佐伯泰英の時代小説といえば、何よりもまず、豪剣・秘剣が繰り出される鮮烈な剣劇シーンが思い浮かんでくる。それは、まさしく、新剣豪小説と呼ぶにふさわしいものである。
 だが、血の臭いばかりでなく、その時代特有の臭い(特に闇の世界から漂う臭い)を文字で表現することにかけては、この作者の筆は、他の追随を許さないものがある。その舞台も、赤穂事件のあった元禄時代(古着屋総兵衛影シリーズ)から、大岡越前の活躍する八代将軍吉宗の時代(密命シリーズ)、寛政期(鎌倉河岸捕物控シリーズ)、そして幕末に近い天保の頃(本書を含む夏目影二郎シリーズ)と、実にバラエティに富んでもいるのである。
 時代小説の面白さは、実は、キャラクターの魅力もさることながら、作品の舞台となっている時代の雰囲気が、読み手に伝わってくるかどうかによって大きく左右されるものなのだ。それをどう表現し、伝えるかが、作者の腕の見せ所でもある。
 そのあたりが、佐伯泰英は実にうまい。読者は、開巻早々、作品の舞台となっている「時代」を肌で感じながら、主人公に自らを同化させていく。

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