お待たせいたしました。いつも月初めに出している手賀沼通信の発行がちょっと遅くなってしまいました。はじめての経験です。心配して電話をくださった方もおられました。有難うございます。実は4月20日より5月11日まで途中1日退院しましたが手術のため入院していたのです。
 今月号は36号の「明るく楽しく老年期を過ごし惜しまれて死ぬための12章」についての皆様方のご意見でまとめさせていただくとお約束していましたが、入院の原因となった病気が高齢者に多い病気で、皆様のご参考になるのではないかと思い急遽話題を変更させていただきました。
 今月のテーマは「前立腺肥大症の手術体験記」です。前立腺は詳しくはあとでインターネットからの引用をご紹介しますが男性にのみある器官です。最近では歌手の三波春夫さんがこの前立腺のガンでなくなりました。場所が場所だけに率直に書いていくと、ちょっと下世話というかストレートな表現が出てきます。女性の方でそんな話は読みたくないという方はここで読むのを終わりにしてください。  ただ、手賀沼通信の読者には適齢期の若い女性はいらっしゃいません。将来のご主人の健康維持のためにお読みいただいても無駄にはならないのではないかと思います。

前立腺肥大症手術体験記

1.台湾旅行中に突然排尿がストップ
 4月16日、2泊3日の予定で短い台湾旅行に出発しました。もう少しゆっくりした旅行をしたかったのですが、申し込んだツアーは人数不足で催行中止、同じ日に出発できるのはその旅行会社では2泊3日のコースしかありませんでした。別の旅行会社にする手もあったのですが、料金を払い込んでいることもあってそのコースに切り替えました。でも何が幸いするかわかりません。この短い日程が大事態の発生を防いでくれたのです。
 2日目の夜までは何事もなく楽しい旅を続けていました。ところが2日目の夜台北のホテルでビールを飲んだあと、それまでは問題なく出ていたおしっこの出が突然悪くなりました。5年くらい前から「出が悪いな」とは思っていたのですが、人の3倍くらい時間をかければ出たので実害はなく全く心配していませんでした。旅行にも気にせず出かけていました。その時もちょっと飲み過ぎかなと思いながら夜中に6、7回トイレに通いました。そしていずれ直るだろうとたかをくくっていました。
 翌日は台北の市内観光です。8時30分にホテルを出発し、忠烈祠、中正紀念堂、免税点と回りました。観光に立ち寄るたびにトイレに行きますが、だんだん出が悪くなり、豪華な昼食も食べることよりトイレのほうが気になります。それまでは必ずオーダーしていたビールもやめ、スープにも手をつけないようにしました。
 その頃から小水はほとんどでなくなりました。苦しさはだんだん増してきます。苦しさは例えば観光バスの中で飲みすぎておしっこをしたいのにバスが止まってくれないといった感じです。それがずっと続くのです。そしてときどきじっとしていられないくらい陣痛(男なので痛みはよくわかりませんが)のようなものが襲ってきます。ようやくサービスエリアに着いてトイレにかけこみすっとするあの感じが味わえないのです。
 これからの空港での時間のかかる手続き、出発までの待ち時間、成田までのフライト、成田から我が家までの道のりなどを考えると、はたして無事に家にたどり着けるだろうかという思いが頭をよぎりました。機内では通路側に席をとってもらい、飲み物のサービスも機内食もすべて断りました。日本アジア航空の若くてステキなフライトアテンダントが心配して何度も声をかけてくれるのですが、苦しさのわけを説明するのは気が引けます。幸いいつもの旅仲間の佐藤さんが今回も一緒です。我孫子までなんとかたどりつけたのは佐藤さんのおかげでした。
 夜10時頃やっとの思いで家につきました。途中では、家に着けばしめたものと考えていました。ところが本当の苦しさはそれからが本番でした。腹ぺこだったので、海苔巻をつまみお風呂に入って布団にもぐりこみましたが、苦しくて横になっていられません。もちろん全く出ませんがトイレで座っているのが一番楽な姿勢です。明け方には1時間半くらいトイレに座って時間のたつのを待っていました。
 9時になるのを待ちかねて家内に近くの病院に車で連れていってもらいました。泌尿器科の先生は一目見るなり「なぜもっと早くこなかったの。膀胱が破裂したら大変だよ」といわれました。「前立腺肥大症」でした。1本のしびんでは間に合わず1600CCも尿が溜まっていました。もし旅行の日程が当初の計画通りもっと長かったらと考えるとぞっとしました。多分膀胱破裂で異国の地で救急車を呼ぶか、そうでなくても台湾の病院にかけこみ、ツアーの仲間から離れて別行動になっていたことでしょう。  病院で尿を採ったらうそのように楽になったのでその日は家に帰りました。しかし全く尿が出ないのは変わりません。翌4月20日再度病院に行きこちらから入院と手術をお願いしました。

2.前立腺肥大症は一体どんな病気?
 ところで前立腺肥大症とは一体どんな病気でしょうか。インターネットで調べたら高山泌尿器科のホームページにわかりやすい説明があったので以下にそれをご紹介しましょう。
 前立腺肥大症は尿道にコブが出来て排尿障害を起こす老人男性の代表的な病気です。「最近、どうもオシッコの出方がおかしいな」と年配の男性が感じたときには、前立腺肥大症が疑われます。前立腺肥大症は、老人の慢性症の代表的なものです。
◆ 前立腺とは?
  前立腺肥大症という病気の名前は良く耳にしますが、前立腺がどこにあってどんな働きをするのか、正しく知っている人は以外に少ないようです。
 前立腺は、男性の膀胱の出口に尿道を包むようにあるもので、精液を作るのに重要な役割をする(精液の液体成分の3分の1を占める前立腺液を分泌する)器官です
 その構造は、よくみかんに例えられます。みかんの皮に当たる部分を「外腺」、実に該当する部分を「内腺」といいます。そして、中心の部分をオシッコの通る尿道が貫いています。(男性生殖器図説、前立腺図説)
◆ 前立腺肥大症とは?
 ところが、加齢にともなってホルモンのバランスが悪くなると、内腺の細胞にもり上がり(結節)ができます。これが増殖し肥大してみかんかりんごほどの大きさの良性のコブ(腫瘤・腺腫)になって、尿道を圧迫してしまうのです。そうするとオシッコが順調にすっきりと出なくなる、排尿障害を起こします。これが前立腺肥大症という病気です。
 病気になりやすい人は熟年以降の男性です。50歳ぐらいから前立腺の内腺に結節ができる割合が高くなり、70〜80歳台では10人のうち7〜10人は大なり小なり前立腺肥大症の傾向があるといわれています。しかし、その誰もが治療を必要とするとは限りません。コブの肥大の度合が軽い人もあれば、コブが大きくなっても排尿障害を起こさない人が約3分の2程度はいるといわれています。尿道や膀胱頚部を圧迫して、症状が出た場合を前立腺肥大症といいます。高齢化が進むに連れて、最近は患者が非常に増えています。

3.手術はカンナで削るようなもの
 入院したのは我孫子東邦病院で泌尿器科の評判のいい病院です。当日、泌尿器科の西村先生から手術について細かく説明を受けました。関東には珍しい岡山大学医学部の出身、関西弁で気さくな先生です。先生の言葉を借りましょう。「手術は下半身麻酔で、おちんちんの先から尿道に管を入れるんですわ。尿道は延びちじみするので心配せんでええ。管を通して内視鏡をいれ、リングのようなメスで肥大した患部を削っていく。まあカンナで削るような感じかな。血が出るので毛細血管を電気で焼いて血をとめる。輸血は必要ないと思うけど万一のことを考えて一応準備しとく。削ったくずは尿道から流しだす。通常1時間半から2時間くらい、だけどあんたのは大きいからもっとかかるかもしれん。手術の状況をモニターで見られるよ。」とのことでした。
 4月20日に入院、手術は23日と決まりました。それまでにCTスキャン、膀胱に造影剤を入れてレントゲン撮影、また造影剤を点滴してのレントゲン撮影がありました。
 さて手術の当日です。病室から運搬用のベッドに乗せられて手術室に運ばれるときはさすが緊張しました。スタッフは西村先生と麻酔の医師、看護婦2人の4人です。天井の電気がやけに明るいなと思いました。手術台にあがると俎板の上の鯉です。もうどうしようもありません。不思議なことに台の上に乗ると緊張がほぐれてきました。先ず脊髄に麻酔薬を注射、しばらくすると下半身の感覚が全くなくなりました。内視鏡が挿入されると顔の右横にあるモニターに手術の状況が写しだされます。リング状のメスが患部の組織を削っていくのがよくわかります。まるで深海にある海草を刈り採っていく感じです。緑や白やカーキ色や灰色のゆらゆらしたものが面白いように刈り採られます。ときどき赤い水がモニター一杯に広がるのは出血しているのです。最初は懸命に見ていましたが、同じ画面が続くのでだんだん眠くなってきました。一定時間ごとに血圧が自動的に測定されます。心電図も専属のモニターに写し出されているようです。ときどき看護婦さんが「気分悪くありませんか」と声をかけてくれます。
 手術は3時間近くかかりました。全く尿が出なくなっていたので肥大が大きかったようです。手術中不安や心配は全くありませんでした。通常より時間がかかったので病室で待っていた家内のほうが心配していたのかもしれません。
 手術後は病室に戻りました。ICUに入る必要はありません。先生がプラスチックのビンに入った削り取ったものを持ってきて見せてくれました。得体の知れないものが細かく砕かれてはいっていました。  その夜は酸素吸入、心電図、膀胱の洗浄と点滴が身体についており、あまり身体を動かせません。多少発熱もありよく眠れない一夜でした。
 翌日からは平常通り食事が出ました。点滴は朝晩2回で3日間、尿の袋は5日目にはとれました。手術後は水分をできるだけ多く取る必要があります。前立腺のけずりかすや血液の塊を早く出すためです。袋をとってからの尿の出ぐわい見て退院となります。私の場合は手術後8日目で退院となりました。ゴールデンウィークの谷間の5月1日でした。

4.また病院に舞い戻る
 ところがゴールデンウィークの後半が始まる5月3日にまた病院に舞い戻ることになったのです。
 12日間の入院が終わって先ず試みたのは入浴でした。管が入っているうちは病院でお風呂には入れません。また休日は病院の入浴サービスがありません。9日ぶりのお風呂から出るとすぐ溜まっていたメールの返事を書き始めました。またお見舞いにきていただいた人に電話をしたり、台湾旅行の整理をしたり、買い物をしたりしました。仕事の片付けは翌日一杯かかりました。ずっと椅子に座りっぱなしでした。夜は夜で退院祝いで一杯、翌日もビールをしたたかいただきました。すっかり元気になったのと勘違いしたのです。今考えると大分無理を重ねたようです。
 退院に際して先生から言われたのは自転車に乗ってはいけないということだけでした。アルコールについてはこちらからわざと聞くのを避けていました。先生のほうでお酒に付いて触れなかったのは患者が退院初日からアルコールを飲むなどとは思わなかったのかもしれません。
 退院翌日の5月2日の夜からまた尿が出なくなり苦しくなってきました。3日から連休なのでとにかく早く病院に行こうと3日の早朝4時半に電話をして息子に車で連れていってもらいました。
 今度は管がなかなか入りません。そのときの当番医は小児科の先生で泌尿器科ではありませんでした。結局器具が合わなかったようで1時間くらいしてやっと1500CCの尿を採ることができました。
 そしてその日支度をして午後から再入院となったのです。検査や処置は連休明けの7日以降です。結局8日に検査をして管を抜き、11日に再度退院となったのです。結局退院後尿が止まった原因ははっきりしませんでした。入院してから検査まで時間がたったこともありましたが、いくつかの要因が重なったためのようです。
 入院は合わせて21日間にもなりました。再入院して「あせらない、無理をしない」ということを学びました、
 また今回の入院で同じ病気の人が多いということを実感しました。私のいた病室は6人部屋でしたが、途中で入れ替わった人を合わせて、7人中6人が前立腺の手術の経験者でした。

5.こんな方は要注意
 前立腺肥大の手術は肥大の程度が軽いうちにすませておけば簡単です。私のとなりに別の病気で入院していた人は、昔若いときに軽いうちに手術したので15分くらいですんだと言っていました。
 また同室に私の家の向いの人が同じ手術で入院していましたが、86歳の高齢のため手術後1ヶ月たっても退院できず、結局2度目の手術をすることになってしまいました。やはり若いとき、軽いときに手術をしておけば簡単で早く退院できます。また私のような死ぬ思いはしなくてもすみます。
 海外旅行中に突如閉尿になるケースは確率からいってそうあることではないかもしれませんが、手術をしておけばなにしろ安心です。これからはますます長生きする時代、ボケとガンと寝たきりと前立腺肥大になる人は増える一方だと思います。
 私の経験から次のような経験をした方はぜひ1度泌尿器科の先生に相談してみることをお勧めします。またご主人にその様な気配があると感じているご婦人方は、ぜひご主人の首に縄をつけてでもお医者さんに看てもらうようにしてください。
要注意の信号
@おしっこをするのに出が悪いなとか時間がかかるようになったなと感じている方
Aお酒を飲んだ後トイレに行ったとき、いつまでもだらだらとおしっこをしている方
B駅や劇場のトイレで後ろに人が立ったとき、いやだなとか悪いなと感じる方
C大便をして紙でふくとき、2つのボールのようなものがあると感じる方
Dおしっこをするとき飛ぶ方向が定まらないため、便座に座ってしている方
E夜中にたびたびトイレに行く方
F排尿の回数が増えた方。
G出した後まだ尿が残っているような感じがある方
 なお前立腺肥大の手術をすると、組織を調べてガン細胞があるかどうかもチェックしてくれます。もしガン細胞が見つかれば早期治療が可能です。そしてなによりも、若いときのように勢いよく飛ばすことができる爽快感が戻ってきます。
 高齢者が楽しく明るく過ごすには健康であることが一番です。それは家族を初め回りの人に迷惑をかけないためにも大切なことです。
 自分の身体は自分が責任を持ってコントロールするよう心掛けましょう。

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