今月のテーマは私たちが日常使っている「水」です。それに手賀沼の浄化が加わっています。
 3月12日(火)、我孫子市のバスで水めぐりの一日を体験してきました。
 訪ねた所は北千葉広域水道企業団の北千葉浄水場、利根川下流工事事務所の北千葉導水路第二機場、千葉県下水道公社の手賀沼終末処理場です。わかり易く言えば江戸川の水を取水して上水道を作るところと、手賀沼に利根川に水を放流して手賀沼をきれいにするところと、下水を処理して利根川に放流するところです。市の広報で参加者を募集していましたので、時間の自由な退職者の身、手賀沼通信の取材にと申し込んだ次第です。
 参加者は36名、内女性が9名、ほとんど高齢者でした。私のように一人で野次馬的に参加している人もいましたが、ほとんどは手賀沼の浄化や我孫子の水道の水質に関心のある熱心な人達で、サークルや仲間で参加していました。質問もかなり専門的で手厳しいものが多く、係員の人達が答えに窮した場面もありました。
 9時から17時まで丸1日かかりましたが、お天気もよく、普段なかなか行く機会のないところで、しっかり勉強できた有意義な一日でした。それぞれの場所のキーワードはいずれもいただいたパンフレットに載っていたものです。

水について考える

1.「安全で良質な水道用水」を供給する北千葉浄水場

 バスはまず順番として飲み水を作り出す浄水場へ到着、待ちうけていた係員の方から説明を受けました。そのときの説明といただいたパンフレットと千葉県水道局のホームページの画像を参考に、決してきれいとはいえない江戸川の水が飲み水になるまでをまとめてみましょう。
 北千葉浄水場は江戸川の取水口から5キロの千葉県流山市にあります。昭和56年より松戸市、野田市、柏市、流山市、我孫子市、習志野市、八千代市、関宿町、沼南町の千葉県の7市、2町に給水しています。それ以外に千葉県にも一部供給しています。一日約40万トンの浄水を供給しています。流山の取水口は東京都が取水している金町の取水口より約10キロほど上流ですが、見せていただいた原水は手賀沼の水と大差ない感じでよごれていました。
 以下は原水を飲み水に変えるまでのプロセスです。

取水塔 川から水を取り入れます。
沈砂池 取水した水に混ざっている砂や泥を沈めます。
導水ポンプ 浄水場に水を送ります。
ここからは浄水場で水をきれいにする作業です。
着水井(ちゃくすいせい) 送られてきた水が浄水場着きます。
薬品混和池 水のにごりを固める薬品を入れます。
フロック形成池 薬品の加えられた水をかきまぜます。ここで水のにごりが小さなかたまり(フロック)になります。
沈でん池 にごりのかたまりを沈めて取り除きます。
ろ過池 にごりの取れた水を、さらにきれいにするため、砂や砂利の層でこします。
 ろ過池から浄水池に水を送る途中で、必要に応じてオゾンや粉末活性炭を投入し臭いなどを除去します。
浄水池 塩素を注入し、きれいになった水をためておきます
送水ポンプ 水を7市2町につながる3方面の送水管に送り出します。

 説明の後、ホールで原水に薬品を入れてフロックを作る実験や砂で浄化する実験を見せてもらいました。それから外に出て説明に出てきたいくつかの池を見学しました。まず設備の広大さと清潔さに驚きました。最初はあまりきれいでない川の水が、次第にきれいな飲み水に変わっていくのは楽しい見せ物といった感じでした。

 家に帰ったあと念のため我孫子市の水道局のホームページを見たところ、次のような説明がありました。
 「我孫子市の水道の水源は、約4割を地下水で約6割を北千葉広域水道企業団からの浄水処理された受水でまかなっています。昭和43年の給水開始時の水源は、全て深井戸から取水した地下水を湖北台浄水場で浄水処理し、給水していました。その後、急激な都市化によって人口が急増したことや、地下水採取規制により、水源を地下水以外にも求めなくては ならなくなりました。そこで、昭和54年からは、久寺家浄水場と妻子原浄水場で、北千葉広域水道企業団からの受水による給水をしています。」

 昔から「湯水のごとく使う」とか「水と安全はタダ」などという表現があるように、私達は水についてはあまり気にしないで使ってきました。最近はペットボトルの水を飲んだり、蛇口に浄水器をつけておいしい水を飲むことが多いのですが、ヨーロッパやアジアを旅行すると、日本の水のありがたさがよく分かります。そこにはこんな立派な設備と人々の努力があるのです。あらためて水資源を大切にしなければという気持ちになりました。
 一方最近では水資源確保のためのダムは要らないという話をよく聞きます。茨城県でも霞ヶ浦の水を供給するための導水事業の縮小が話題になっています。今回の水めぐりの一日でわかったことですが、浄水処理にしても下水処理にしても、一定以上の需要がないと施設を作ってもペイしません。ゴミ処理施設は地方自治体単位で持っているケースが多いのですが、ダムや水処理施設は流域単位で作っている場合が多いようです。「私達の町や自分の村はダムの水を使わなくても水は余っている。新しいダムの水を分けてもらって余計な財政負担をしたくない」というところが増えています。人口が減り、農家も後継ぎがいなくなって、工場もほとんど誘致できなくなった現在、水の需要が計画値より減っているところがほとんどです。数十年前や十数年前に作った建設計画が意味を持たないのは明らかです。お役人の習性として国や県は一度計画を作ると簡単には変更しません。
 北千葉浄水場の広大な施設を見学して、今後の水資源の使い方と公共工事のあり方について考えさせられました。

2.「全国一の汚れた沼をきれいにする」北千葉導水路第二機場
 北千葉導水路第二機場は北千葉導水路の真中当たりにあり私の家とは手賀沼をはさんだ反対側になります。

 北千葉導水路は、利根川と江戸川を結ぶ流域調整河川です。地下水路22.2km、開水路6.3km、総延長28.5kmで構成される導水路と、水の汲み上げ、排水などを行う3つの機場と注水・浄化施設から構成されています。
導水路の中の水は利根川から江戸川に流れます。
 北千葉導水路には次の3つの目的があります。
・手賀川、坂川のはんらんによる浸水被害を防ぐ
・手賀沼等の水質を浄化する
・都市用水を確保する
 北千葉導水事業は昭和44年(1969年)に予備調査が開始され、平成12年(2000年)に全ての工事が完了しました。実に31年かかりました。第二機場は手賀沼に導水路の水の一部を注水して水質浄化を図るとともに江戸川への導水を行う役目をしています。
 手賀沼は昨年まで日本国内で湖沼汚濁連続27年間水質ワーストワンの記録を続けています。それでも平成11年の試験注水以前は22mlあったCODは、本格注水後は10ml以下になっています。昨年はアオコの発生もずいぶん少なりました。飛来した水鳥も増えました。それでもワーストワンなのは今までがよっぽど汚かったのでしょう。訪問した日は設備の点検で放流はストップしていましたが、フル稼働して何とかワーストワンの汚名を挽回して欲しいものです。
 それにも増して必要なことは私達一人一人が水を汚さぬよう気をつけることかもしれません。

3.「水を守るスクラムの要」手賀沼終末処理場
 最後に訪れたのは手賀沼終末処理場、つまり下水処理場です。終末処理場は浄水場と違ってイメージが悪いためか、あるいは臭いが出るためか、それとも他の理由なのかわかりませんが、利根川に近い我孫子市のはずれの人家から離れた場所にありました。事務所は工事中だったこともありなんとなく雑然として暗い感じです。しかし担当者の説明は明確でわかり易く、自分たちの仕事に使命感を持っていました

 手賀沼流域下水道のホームページから下水処理の説明を借りてきましょう。
 説明の後施設を見学しました。沈殿池や反応タンク(エアレ−ションタンク)がいくつも並んでおり、独特の臭いが鼻をつきます。反応タンクには緑色がかった汚水と汚水を食べる微生物を含んだどす黒い水が勢いよく流れ込み、送りこんだ空気で掻き回されていました。ここで汚水はフロックと呼ばれる沈み易い固まりになり、最終沈殿池に溜まります。沈殿した活性汚泥は脱水後焼却して灰になります。その灰をさらに焼成して「なのはなレンガ」が作られていました。透明になった水は最後は砂と無煙炭を敷詰めた池でろ過されてきれいな放流水になり、利根川に放流されます。
 処理している汚水は、松戸市、柏市、流山市、我孫子市、鎌ヶ谷市、印西市、白井市、沼南町のものです。まだ全ての地区に下水道のパイプが埋設されているわけではないようです。
 早く全家庭をカバーするようになって欲しいと感じました。そうなったら手賀沼の湖沼の水質ワーストワンの汚名は返上出来るのではないでしょうか。

4.本当に必要だったか?北千葉道水路
 ところで手賀沼通信の原稿を書いているうちに気がついたことがあります。全くの素人考えですが、浄水場と終末処理場を逆の場所に建設し、サービス地域を共通にしていたらもっと効率的で安上がりに水処理が出来たのではないかということです。そして北千葉導水路は不要だったのではないかと思います。その根拠は水の流れです。現状の水の流れを見てみましょう。
現状
・上水道   江戸川 → 浄水場(流山市) → 1県7市2町(松戸、柏、流山、我孫子、沼南、野田、
 (北千葉広域水道企業団)             関宿、習志野、八千代、千葉県の一部)
・導水路           江戸川    ←  第二機場   ←   利根川
 (国土交通省 利根川下流工事事務所)      ↓
                              手賀沼

・下水道   7市1町(松戸、柏、流山、我孫子、沼南、鎌ヶ谷、→ 終末処理場(我孫子市)→ 利根川
 (千葉県下水道公社)       印西、白井)

北千葉道水路不要論の根拠
・上水道    利根川 → 浄水場(我孫子市) → 10市2町(松戸、柏、流山、我孫子、野田、習志野、
                                八千代、鎌ヶ谷、印西、沼南、関宿)

・下水道   10市2町(松戸、柏、流山、我孫子、野田、習志野、 → 終末処理場(流山市)→ 江戸川
        八千代、鎌ヶ谷、印西、白井、沼南、関宿)            ↓
                                            手賀沼
 北千葉導水路の3つの目的のうち、利根川から江戸川に導水して都市用水を確保する目的は、現状の浄水用の江戸川からの取水を利根川からの取水にすればわざわざ送る必要はないはずです。もし江戸川の水量が足りなければ浄化した下水を江戸川に放流すればいいと思います。また手賀沼を浄化する目的は浄化した下水を手賀沼の上流の大堀川に流せばいいのです。大堀川は流山から手賀沼に注いでおり、流山が終末処理場であればすぐ近くです。大堀川には現在も導水路の水が放流されています。3つ目の目的の洪水の氾濫を防ぐためには、そこだけ汲み上げポンプを設置すればOKです。したがって北千葉導水路は必要ありません。また上下水道のサービス区域を同じにしていたら、埋設管の設置など効率的に出来たのでなないでしょうか。
 もっともこの考えは大変乱暴で、水利権とか、必要な水量とか、工事の技術的問題など難しい問題を無視したまったくの素人の意見です。しかももう設備は出来あがって運用されているので今更何を言うかということになるでしょう。しかし道路公団などを見ていると専門家が間違えてばかりです。素人のほうが世の中が見えています。これらの事業の検討を始める前に、水について総合的に検討していたらもっと効率的なものが出来あがったのではないでしょうか。北千葉導水路は国土交通省(当時は建設省)、終末処理場は千葉県、浄水場はよくわかりませんがいくつかの公共団体が関係しているようで、それぞれ所管が違います。おそらく3つがバラバラに計画されたのではないでしょうか。総事業費は上水道が約2000億円、下水道が約1630億円(平成13年4月1日現在、最終的には約1950億円)、ところが国土交通省の北千葉道水路のパンフレットにはなぜか工事費が記載されていませんでした。他の2つの事業費とおそらく同じくらいかかっているのではないでしょうか
 水めぐりの1日はいろいろ勉強させてもらいましたが、いろいろ考えさせられる1日でもありました。

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