今月のテーマは「海外旅行」です。
 東京都中推協の仲間の稲垣皓一さんから旅行記をいただきました。稲垣さんは年に数回ヨーロッパ中心に奥様と気ままな旅行をされています。
 「団体で海外旅行を楽しむための10カ条」は、50号記念の本を出した時、旅行記特集の最後に入れた文章です。

特別寄稿
アドリア海に浮かぶ世界遺産の街
スロベニア、クロアチアを訪ねる

稲垣皓一     

 4月に入って妻とまた出掛けた。というのもこの1月にマルタ共和国を訪ねたばかりだが、旅行パンフを見ているうちに元気な今のうちに行っておかなきゃという気持ちになった。スロベニア、クロアチア両国とも日本人にとっては比較的まだ馴染みに少ない国だがヨーロッパ各国ではかなり人気の旅行先になっているようだ。とくに対岸のイタリアからは多くの人がバカンスに訪れるようだ。日本からは直行便がなく10日間の予定でウィーン経由で行った。

スロベニア共和国

スロベニア首都
リュブリアナ旧市街
 1991年旧ユーゴスラビアから独立して間もないので、いま急激に失われつつある中世の町の香りがまだ残っている。面積は四国ほどの小さな町だが、西側はアドリア海に面し内陸部は6000を数える鍾乳洞があり自然が一杯。
 まず、首都リュブリアナの見所は旧市街の中心に立つ18世紀のバロック様式の市庁舎およびひとつの川に3本の橋が架かっている珍しい風景である。その後「アルプスの瞳」といわれるブレッド湖へ移動。文字通り絵のような美しさである。そしていよいよボストイナ鍾乳洞へ向う。

ボストイナ鍾乳洞
 まず第一に紹介したい場所である。洞内の温度は年間を通して一定しているといわれ約10度に保たれているそうである。数ある中でスロベニアでは最大の全長である。石灰岩が雨水によって溶かされて作り出されたものであるといわれている。まずトロッコを何十台も繋いだような洞窟電車にのって2キロメートルほど進んだあと徒歩でゆっくりまわる。このトロッコの速さは時速20キロくらいの自転車並なのだが途中張り出した鍾乳洞が頭上すれすれにせまってくるのでつい頭を低くしなければぶつかってしまう。対岸のイタリアから中学生くらいの子供達が大勢観光に来て大きな声で叫んでいたので案内人の説明もろくにきけなかったのが残念である。洞内では反響が面白いので騒いでいたのだろう。歩いていくとところどころに大小の広場があってスパゲティホールと名づけられている所は天井から垂れ下がった極小の管状の鍾乳洞がスパゲティに似ているところからということだ。またコンサートホールと名づけられて洞内で一番大きなホールがあり実際コンサートを開くこともあるとか。この鍾乳洞は13世紀にはすでに訪れた人があるということだ。入口付近の地下道の壁にのこる訪問者のサインがあるという。こんなどでかい洞窟が在るものだと凄みを感じた。
 なおこの国は5月からEUに加盟とともに通貨もユーロに切り替えることがきまっているのでどこでもユーロが使えた。ついでながらお隣りのクロアチアはまだEU加盟の時期がきまっていないのでユーロはほとんど使えず現地通貨と両替する必要があった。ここから南に位置するクロアチアへ入る。入国はバスの中へ審査官が乗り込んできて一人ひとりパスポートを見てスタンプを押してゆくやり方で通関した。

クロアチア共和国
 ここは1992年にユーゴスラビアから独立して今では年間800万人以上の人が訪れる観光立国となっている。
 この国も独立して間もないのでまだ昔の東欧のイメージも色濃く残っている。四国と九州を会わせたくらいの国であるが中世から海洋貿易の要衝として栄えてきた。アドリア海を挟みイタリアの対岸に位置している。
 先ずこの国屈指のリゾート地オパティアから湖畔国立公園へ向った。

世界遺産指定の森と水と自然の国立公園
 16個もの湖が無数の滝で連なっているブリトヴィツェ国立公園である。まさに森と水、自然の造形美の極致とでも表現できる。水があまりにも澄んでいる。この色をエメラルドグリーンというそうである。最も高い標

ブリトヴィツェ国立公園
16の湖と92の滝
高639メートルの湖から一番低い標高150メートルの湖まで階段状にある16の湖を通ってコラナ川へ蛇行しながら流れている。滝になって流れ落ちる様はまさに壮大である。200平方キロメートルという広大な面積で全周すると丸一日掛かるとのこと。私たちは3時間くらいのハイキングコースを堪能した。湖については何年か前に訪ねたカナダやスイスも美しいが個人的にはここの方が壮大で感動という言葉が相応しいと思う。
 シベニクの世界遺産、聖ヤコブ大聖堂見学後「リトルベニス」とも言われる世界遺産の古都トコギールヘ。そしてアドリア海最大の港町スプリトを経てドヴロヴニクヘ。

アドリア海の真珠といわれるドヴロヴニク
 今ではクロアチアきっての観光地と言われる。街は高い城壁に囲まれている。今年1月に訪ねたマルタ共和国のヴァレッタを思わせる要塞都市でここも世界遺産に登録されている。16世紀から17世紀にかけて東西貿易の中継地として栄えた。「アドリア海の真珠」「アドリア海の宝石」とも呼ばれる実に美しい町並みであ

城壁の上からアドリア海
る。町全体が中世の博物館のよう。大火、地震、かってのユーゴ内戦など多くの災難にもかかわらず今なお永遠の輝きを保ち続けている。城壁は1940メートルもの長さがあり高さが25メートルほどで上に登って周囲を歩いた。1時間ちょっと掛かった。オレンジ色のメルヘン風の瓦屋根の家がならび細い路地が無数に張り巡らされている。数百年前へタイムスリップした感じ。素晴らしい快晴に恵まれて街も海もよく見渡すことが出来た。食事は海がそこにあるのでシーフードが主である。すごくでかい炭火の竃が5つ6つあってその上に大きな金網を敷いて取れたてのマスを焼いている。スズキの塩焼きもなかなかのものである。イカのリゾットもここ地元の白ワインに合う。日本人の口にぴったりである。

首都ザグレブへ
 人口120万人のクロアチアの首都である。1000年以上の歴史を持ち「小ウィーンとも称されるように緑に包まれた美しい都市である。見所はやはり旧市街である。ネオ・ゴシック様式の大聖堂、石造りの二つの尖塔が世界一高い(108メートル)と言われている。屋根には青色、赤茶色、そして白色で描かれたクロアチアとザグレブの紋章が印象的だった。
 中世にタイムスリップしたような景観はいつまでも心に残っていくような気がする。旅行中、他の日本人には全く会わなかった。日本からの観光が今後かなり増えそうな気がする。

団体で海外旅行を楽しむための十ヵ条
 
 旅は日常生活から切り離された時間と空間があり、日頃のしがらみや心配事から切り離された自由が楽しめます。旅は道ずれといいます。お互い心を開けば新しい世界が開けることになります。
 海外のパッケージツアーは会社やサークルの旅行と違って、通常見知らぬ人同士の集まりです。そこにはちょっとした心遣いが良い雰囲気を作り、コミュニケーションが図れます。逆にちょっとした心無い言葉や振る舞いが他の人に不愉快な思いをさせることになります。そして自分も他の人から冷たい目で見られることになります。せっかく高いお金と貴重な時間を使って出かける海外旅行です。楽しく過ごすよう心掛けましょう。

1.日本の食文化を持ちこまぬこと
 旅行先の国々にはそれぞれの食文化があります。食事のときに、よく「この肉はかたすぎる」「辛くて口に会わない」「変なにおいがする」「甘すぎる」などといって愚痴をこぼす人がいますが、そこは日本ではないのです。日本と同じ味を求めるなら日本料理店に行くしかありません。(それでもちょっと味は違いますが)
 大好きなビールなどのアルコールも国によって少しずつ味が違います。違和感があることもあります。でもせっかく違った国を訪れたのです。その国の味を楽しむようにしましょう。

2.その国のマナーを守る
 カナダやニュージーランドに行ったとき、動物や小鳥に餌をやらないよう注意されました。美しい環境と動物の生態系を守るためだそうです。ところがニュージーランドの屋外のレストランで食事をしていたとき、テーブルの上にあったパンをきれいな芝生の上に放り投げて小鳥にやっている夫婦がいました。おそらく日本での習慣が行動に出たのでしょうが、芝生の上にはパンくずが散乱することになり、まわりからひんしゅくを買っていました。韓国のバスガイドさんから、中国人の団体はバスの中で飲み食いして床を汚すとこぼしていましたが、それは中国人とっては自然の行動なのかもしれません。それと同じようなことを日本人も外国でしているのではないでしょうか。
 また、日本の高校の修学旅行の生徒がホテルの中をスリッパで歩いているのを見かけたことがありましたが、事前に先生はきちんと説明したのでしょうか。

3.みんなのことを考えて
 中華料理の円卓を囲んで食事をしているとき、奥さんが自分とご主人の食器に、運ばれてきた料理をたっぷりとっている風景をよく見かけます。普通はテーブルを囲んでいる人の人数を考えて、目分量でどのくらい取ればみんなに行き渡るか考えるものです。また旅行期間中バスの前のほうの座席をいつも確保する夫婦連れもいました。自分たちが良ければ他の人のことは考えないというのは、なぜか夫婦連れに多いようです。家ではあまりかまわないから、せめて旅行のときくらいはサービスしなければと思っているのかもしれません。

4.時間を守ること。勝手な行動をしないこと
 団体行動では決められた時間を守ることが最低のルールです。一人時間を守らなくても皆に迷惑がかかります。また勝手な行動をして皆からはぐれないようにすることも重要です。幸い私が参加した海外旅行では全体の行動に影響するような場面には遭遇していませんが、以前国内旅行で一部不心得な人がいて添乗員が必死で探し回っていたことがありました。
 私も中国に行ったとき明の十三陵であまりの人の多さに団体とはぐれてしまい、あわててバスが駐車している場所まで戻ったことがあります。バスも似たような車体でどのバスかわからず肝を冷やしました。中国の天安門広場や万里の長城も迷子になりやすいところです。ちょっと写真を撮るだけと列を離れて勝手な行動をすると、はぐれることになりかねません。

5.コミュニケーションを図ろう
 旅は知らない人同士を結び付けてくれるチャンスです。朝のあいさつや気軽に一声かけることによって、コミュニケーションが図れ交流が生まれます。旅も楽しくなります。難しそうな顔をしている人もこちらから声をかけると心を開いてくれることが多いようです。特にお酒の好きな人は話が弾むことが少なくありません。私も旅行中に知り合い今でも交流を続けている人が何人かいます。

6.セキュリティに気を配る
 フランスのルーブル美術館でモナリザの絵を見ているとき、混雑にまぎれてウェストポーチからクレジットカードを盗まれた人がいました。すぐ気がついてカード会社に電話して事なきを得ましたが、カード番号と連絡先を控えていなかったとしたら慌てたことでしょう。パスポート、お金、クレジットカードはセイフティボックスに預けるのが常識です。パスポートのコピーや予備の写真も持っていきましょう。お金やスーツケースのキーなどは二ヵ所に分けて持ったほうがいいです。お店から外に出た後財布にお金をしまうのは厳禁です。部屋の鍵は二重にロックしましょう。
 セキュリティ検査にも気を配る必要があります。ニュージーランドでスーツケースがお土産で一杯になり小物入れをナップザックに入れたため、見事手荷物検査で引っかかりました。ワインオープナーが犯人でした。

7.その国、その街、その国の人を知ろう
 パック旅行は観光がセットになっている事が多いのですが、時間があればできるだけ多くの名所、旧跡、博物館、美術館などを自分の足で見て廻ると旅の印象が深まります。そのためには好奇心をもって、「面倒だからいいや」ではなく、「面白そうだから行ってみよう」で頑張りましょう。
 できれば旅行先の国のあいさつの言葉を覚えて、現地の人との交流を図ることです。日本語を話せる人がいる免税店だけでしか現地の人との会話がなかったというのではあまりにも寂しい話です。ちょっとした英語やスペイン語や中国語が話せると交流はさらに深まります。言葉が通じるだけでも楽しくなります。
 観光バスの中で居眠りをするのは日本人が一番多いそうです。ある大学の教授が、「観察することと考えることはタダ」といっていましたが、せっかく外国に来て道中居眠りばかりしていたのではもったいない話です。私もビールやワインなど飲んでバスや列車に乗ると眠くなりますが、できるだけ我慢して外の風景を楽しむようにしています。
 また訪問先で観光客向けのイベントなどがあるときは、恥ずかしがらずに参加すると思い出が残ります。

8.記録を残す
 皆さん、写真、デジカメ、ビデオなど、思い思いの方法で記録を残していますが、ちょっと手間をかけてメモをとっておくとさらに忘れがたい旅となります。旅行は計画し準備する出かける前の楽しみ、観光や交流やご馳走などの旅行中の楽しみ、ビデオや写真や記録を整理したり眺めたりする帰ってきてからの楽しみがあるといわれます。
 次の旅行の参考にするためにも記録を整理しておきましょう。旅先でもらったり集めたりするパンフレットや書類なども捨てないでとっておくと、思い出になります。ホテルには無料の観光地図や市内ガイドをおいていますのでもらっておくと役に立ちます。

9.事前準備を十分に
 出かける前に十分な準備をしておくと、現地についてから「しまった」とか「知らなかった」ということが少なくなります。
 私の場合、旅行を計画するときは、その地のベストシーズンを選ぶようにしています。ベストシーズンは人によって感覚が違うと思いますが、冬は避けて、なるべく暖かく、遅くまで明るい時期にしています。そのほうが荷物が少なく、また遅くまで行動できるからです。年中暑い国の場合は雨季を避けて乾季を選びます。
 準備は旅行会社のパンフレットを見たり案内書を買ってきて読んだりするのが一般的だと思いますが、インターネットを利用すると詳しい上にタイムリーな情報が得られます。旅行会社のツアーの内容や費用の比較も簡単にできますし、申し込みも簡単です。現地のホテルの設備や現地の天気予報、気温などを簡単に見ることもできます。

10.健康に気をつける
 健康に不安を抱えながら旅行しても面白くありません。旅先で病気になると途方にくれてしまいます。私も過去二回そんな経験があります。旅行の日程の直前は体調に気をつけてください。
 常用している薬を持っていくのは当然ですが、下痢止め、胃の薬、風邪薬、きずテープ、虫除け、かゆみ止めなども持っていくといいでしょう。アジアでは水道の水が飲めるところはごく一部です。ヨーロッパの水も日本人には合わないようです。旅先でいろいろ食べてみるのは旅の楽しみの一つですが、自信のない場合は現地のガイドに相談してみるのもいいでしょう。食べ過ぎ飲み過ぎは要注意です。旅行障害保険は必ず入りましょう。持ち物がなくなったときにも役に立ちます。

inserted by FC2 system