今月は思いがけず体験した「心臓冠動脈のカテーテル治療」についてまとめました。
 2001年4月、台湾旅行中に排尿がストップし、帰国後即入院で前立腺肥大の手術をしました。手術後入院生活を続けているとき「この経験は記事になるな」と感じていました。そしてその経験を手賀沼通信第38号にまとめました。期待通り?何人かの方からコピーして配りたいというご依頼を受けました。今回の入院はそれ以来の体験ですが、同病の方の参考になるのではないかと感じています。お断りいただかなくてもコピーして配布して下さって結構です。
 情報発信をするようになってから、病気で入院した場合決して楽しくない手術と入院生活を「これで手賀沼通信の1回分のネタができた」と前向きに考えるようにしています。
 もしカテーテル検査を受けようかどうしようかと迷っておられる方がおられましたら迷わず受けてみるようお勧めいたします。

心臓冠動脈カテーテル治療体験記

1.健康診断で心電図に異常が見つかる
 カテーテル治療を受けるきっかけは我孫子市の健康診断でした。
 2004年11月10日に近所のホームドクターの竹内医院で市で提供している年に1度の健康診断とインフルエンザの注射を受けました。やや血圧が高いのと、境界型糖尿病と、歳のせいで時々足や腰が痛みますが特にこれといった健康上の心配はありません。ごく軽い気持ちで受けたのですが、心電図に「負荷心電図不可」という診断が出ました。先生からは「大病院ならすぐカテーテル検査というでしょうね。負荷心電図検査をしなくても異常は明らかだし、負荷をかけているときの万一の事故を防ぐためにこういう診断が出るのです」といわれました。
 30年位前から、会社での健康診断や人間ドックなどで検査を受けるたび「虚血性心疾患」という診断は出ていました。しかしいつも経過を見るということで治療の指示はありませんでした。もちろん自覚症状もまったくなく、駅などではできるだけエスカレーターには乗らず階段を利用していました。10月にしまなみ海道80キロを歩いた時も異常は感じませんでした。
 竹内先生にもそれまでの事情を話してしばらく様子を見ようということになりました。ところがその後がいけません。不思議なことに自覚症状らしきものを感じるようになりました。夜寝ていると心臓の動悸が激しくなってきます。駅の階段を上っても息切れするような感じがします。「気のせいだ」と思うようにしても気になります。1ヶ月あまり迷った末12月17日に竹内医院に行き、心臓で有名な松戸の新東京病院への紹介状を書いてもらいました。
 12月24日に新東京病院で心電図、超音波,レントゲンなどの検査をした結果、悪いところを特定するためカテーテル検査を実施することになりました。病院もお正月休みに入るため、検査日は1月4日と決まりました。

2.心臓カテーテル検査とは

新 東 京 病 院
 心臓カテーテル検査は心電図や超音波の検査と違って、血管に管を入れる検査のため合併症などのリスクが多少あります。そのため検査とはいえ本人と家族の同意書を出す必要がありました。また検査について新東京病院の循環器科部長より説明があり詳しい資料を渡されました。資料の概要は次の通りです。

心臓冠動脈
 『心臓カテーテル検査とは、カテーテルという細い管(1mmちょっとの大きさ)を使用して、主として心臓を養う動脈(冠状動脈)を造影剤を使って造影し、動脈硬化等による狭窄、閉塞を発見するための検査です。右図のA,Bのように狭くなったところ(狭窄)を主に発見することを冠動脈造影といいます。
検査実施の方法
 心臓カテーテル検査では、動脈または静脈から心臓の方へ向かって細いカテーテルを進めていくのですが、検査に際しては全身麻酔ではなく、局所麻酔をします。また注射をしていくのは
・鼠径部
・肘部
・手首部(橈骨動脈)
の3箇所のいずれかですが、後々に安静が要らない等の理由で、橈骨動脈から検査を施行することが殆どです。
 カテーテルは1mm強のごく細い管を用い、血管内を進めるにあたっては殆ど苦痛は感じません。カテーテルを冠動脈,心室まで進め、その造影等の所定の検査が終了すると,すぐさまカテーテルは抜去、サポートしていたシース(カテーテルを入れるためのガイドのようなもの)も抜去します。術後は止血用のバンドをしたうえで、約3〜4時間でそのバンドをはずし、カットバン等の処置をします。
検査施行に際しての注意事項
 心臓カテーテル検査は日本でも開始されたのは古く、一般的な検査となってからも約20年を経過しており、その間も多くの進歩を遂げ現在ではほぼ確立した検査です。しかしながら、血管に対して直接アプローチする検査ですのでまったく合併症がないわけではありません。代表的なものでは
@検査施行部位の血腫
A不整脈
B施行血腫の攣縮
C施行血管の塞栓
D脳梗塞
等ですが、@、Aを除けばどれも発生する確率は著しく低い頻度であり、C、Dにいたっては5000分の1以下の確立です。』

3.カテーテル検査を受ける
 検査が1月4日と決まってから落ち着かない日が続きました。いろいろ余計なことを考えるのです。お正月の2日は子供や孫たちが来て8人の全員集合となり、3日は息子夫婦が泊まっていったので気が紛れましたが、もし静かな3が日だったらきっと沈んだお正月になったことでしょう。
 4日11時に入院後すぐ点滴を始め、1時からカテーテル検査が始まりました。T字帯ひとつで手術台に横になりました。右腕には点滴と血圧計が取り付けられました。左手首に麻酔がかけられ動かないようしっかり固定されました。検査が始まると左腕の血管の中を管が通っていく感じがわかります。造影剤が入れられると体が熱くなったり冷たくなったりします。胸の上に大きなカメラがあってそれが上下、左右に動きます。左前方にモニターがあり、先生はそれを見ながら検査を進めているようです。メガネは持込を禁じられていますので強度の近視の目にはモニターは見えません。担当の先生からの助手の先生や看護士に対する指示ははっきり聞こえます。時々看護士が「気分は悪くありませんか」とか「痛いところはありませんか」と声をかけてくれます。
 検査は30分くらいで無事終わりました。検査を受けるときは歩いてきたのですが帰りは車椅子でした。それから夕方までは点滴が続きました。看護士に確かめたら「ポカリスエットのようなもの」と教えてくれましたが、造影剤を早く体外に出すため生理食塩水を入れているようでした。
 検査後は寝ている必要はありません。左手首は5時間動かさないようにいわれましたが、トイレに行くのも自由でした。
 夕方6時ころから主治医の先生から検査結果の説明がありました。家族の方も一緒にとのことでしたので、家内に電話して来てもらいました。パソコンに検査の画像を写しながら詳しく説明してくださいました。診断は「3つある冠状動脈のうち左前下行枝とその枝分かれ部分に狭窄がある。いますぐどうということはないが、将来突然死の可能性があるのでその部分を拡げる処置をとったほうがいいでしょう」とのことでした。
 やはり心電図は正しかったのです。半分は予期したことでしたが、バルーンとステントで手術する必要があるといわれたのはショックでした。しかしはっきり自分の目で確かめたことですので言われたとおりにするしかありません。
 とりあえず5日に退院して8日に再入院11日に手術と決まりました。普通なら10日に手術ですが、成人の日との連休になったため待機期間が1日増えました。

4.経皮的冠動脈形成術(PTCA/PCI)とは
 俗にバルーン手術などといわれていますが、正式には「経皮的冠動脈形成術(PTCA/PCI)といいます。手術に当たっても本人と家族の同意書を提出、手術についての説明を受け、資料をいただきました。その概要は次のとおりです。

 『心臓を養う血管(冠動脈)に狭窄,もしくは慢性か急性の閉塞の生じた状況を解除する目的でカテーテル治療をすることを、経皮的冠動脈形成術(以下PCI)といいます。
PCIとは

ステント
 カテーテルそのものは鼠径部、肘部もしくは橈骨動脈からの手首部よりアプローチし、約2〜2.5mmの細い管(カテーテル)を介して治療します。穿刺する部分は局所麻酔であり、全身麻酔ではありません。カテーテルが血管の中を進んでいくときには、通常痛みは感じません。カテーテルが冠動脈まで進んでから、今度はそれを通じて柔らかい細い髪の毛のようなガイドワイヤーというものを進め、狭窄部を通過させます。その後、そのワイヤーを使って滑らせるように風船(バルーン)を狭窄部位までもって行き、拡張、そしてステントといわれる金属の薄い格子状の筒を血管に密着させ、その拡張により血管を支持させて終了です。
PCIの意義
@狭心症の場合は、動脈硬化の進行により、その血管で養う筋肉がしばしば虚血(血流の循環が必要とされる量より下回ること)に陥り、それによって心臓全体の収縮拡張によるポンプの機能が落ちていくという問題を解除することができます。
A急性心筋梗塞症の場合は、突然の血流の遮断により、もうすでに心筋が虚血から壊死へと進んでいる状態ですので、この閉塞の解除により心筋の完全な壊死を防ぎ、心臓のポンプ機能の不全状態を改善させることができます。
PCIの合併症
 PCIは約20年前に始まった治療ですが、ここまで毎年たゆまぬ進歩を遂げており虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞症)の治療としては確立しております。現在、心血管バイパス術も合わせて当院では施行しておりますが、PCI対バイパス術は約10:1と圧倒的にPCIが主流となってきました。
 ただこのPCIにもまったく合併症がないわけではありません。代表的なものでは
@不整脈
A冠攣縮
B冠動脈解離
C冠動脈穿孔
D急性冠閉塞
E亜急性冠閉塞
FD、Eに伴う合併症による死亡
 @、Aは殆どの場合薬物で、Bについては先に述べたステントで、Cに関してはステント、心嚢穿刺等の治療、D、Eは再PCIで、というように殆どで対処する方法があり、危険にさらされる可能性はかなり低くなっています。Fは0%〜0.2%前後とお考えください。PCIもカテーテル治療ではありますが、血管内手術ともいい、結局心臓の中では手術を施行していることと変わりありません。そのため危険性が全く0であるとは言い切れませんが、かなり0に近くなったということは技術的に言えると考えております。』

5.経皮的冠動脈形成術(PCI)を受ける
 8日午後2時に再入院、点滴で造影剤を入れてCTで全身をスキャンされました。PCIを施行するための検査です。そのあとは手術までは何もありません。11日の手術を待つだけでした。
 入院した部屋は病室といわず観察室といわれていました。心臓の検査や手術の前後の患者が集められており男女同室でした。私の入った部屋は8つベッドがありました。
 救急車で送られてきた人や胸にメスを入れて骨をはずし心臓の弁膜の手術をする人などが入っていました。おそらく私が一番軽症だったのではないかと思います。
 11日の手術は10時から始まりました。検査は家族の立会いは不要ですが、手術は家族の立会いを求められました。万一のことを考えてのようです。検査は左手首からでしたが手術は右手首の動脈からでした。検査のときと殆ど同じ手順で進められました。心臓冠動脈の左前下行枝とその枝分かれ部分をバルーンで膨らましステントを入れるのです。一度同じ台にあがっているので検査のときほどは緊張しませんでした。違ったのはバルーンやステントで処置するため聞こえてくる音の種類が増えたのと時間が1時間位かかったことです。入れた管も少し大きかったようです。メガネをかけて手術室には入れないためモニターを見ることはできませんでした。
 手術後担当医より「ステントは1個入れました。きれいになりました」と説明がありました。
 それから2日後に退院するまで点滴が続きました。多いときは4種類の点滴でした。11日の夜は微熱が出てあまり眠れませんでしたが、翌日からは普通の状態に戻りました。

右手のPCIの跡(術後46日目) 左手は跡は消えている
 退院までに、主治医、循環器科部長、看護士から手術の結果や血液さらさらの薬や退院後の生活についての説明がありました。薬を飲むのを忘れないことと無理をしないこと以外は普通どおりの生活が続けられるとのことでした。ただ気が重くなったのは3ヶ月が6ヵ月後に再狭窄がないかのカテーテル検査が必要といわれたことです。また服用している薬の副作用にも気をつける必要があるようです。
 1月25日に来るようにいわれて13日に退院しました。
 手術のあとは血管に穴を開けるだけなのですぐ消えます。写真は手術後46日目の2月26日に撮りました。右手のPCIの跡は実際は少し痕跡が見えるのですが写真ではわかりにくいくらいです。左手のカテーテル検査の跡は完全に消えています。

6.かかった費用
 ご参考までにかかった費用をまとめておきます。これは処置の内容や入院期間や薬の種類などによって変わってくると思いますので、ひとつの例とお考えいただいた方がいいでしょう。

項目カテーテル検査PCI
投薬料1,2811,827
注射料1353,744
処置・手術・麻酔料210316,542
検査料34,9232,478
X線料010,263
入院料11,01632,778
食事負担金1,5604,680
自由診療分50250
その他1,200150
消費税313
合 計50,378372,725
(単位:円)
カテーテル検査は1泊2日
PCIは5泊6日(連休のため1日余分)
 決して安くない金額ですが、健康保険の高額療養費の負担軽減措置が利用できますので、
1ヶ月72,300円+(医療費−241,000円)×1%
を超えた額が健康保険組合または市区町村から戻ってきます。ただ、返還までは3か月くらいかかるようで、退院時に請求金額を用意しておく必要があります。
 1ヶ月、1病院,1科目でのレセプトが上記金額を超えた場合という制限があるため、できればカテーテル検査とPCIは同じ月になるよう日程を決めたほうが返還額が増えます。なお健康保険組合によっては上記の金額がもっと少ない額に設定されている場合があります。
 高齢者は終身の医療保険に入っておくと助かります。
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