今月のテーマは「旅行記」です。高校時代の友人の永井さんからカナダ旅行についての投稿をいただきました。
 手賀沼通信にお寄せいただいた寄稿文は圧倒的に旅行記が多くなっています。そこで旅行記を書くときのヒントをまとめてみました。例によって私の独断と偏見に満ちています。お許しください。

特別寄稿
カナダ周遊雑感
  

 永井克男 

1.はじめに
 昨年9月中旬、台風に追っかけられるようにして、成田出発、11日間のカナダ旅行を楽しんできた。カナダについては、何となく判っているつもりでいたが、地図を見て、途方もなく広い国だということ以外、歴史その他については、殆ど知らないままの、成り行きまかせの出発であった。
 しかし、実際に行ってみると、旅行案内書のにわか勉強とはかなり違った点が多く、全体にゆったり、のびのびした親しみの持てる国だなという印象を強く受けた。

2.カナダは想像以上に広かった
●地図を見ると、カナダは、南はアメリカとの国境、北は北極海、東は大西洋、西は太平洋までとまことに広大であることが判るが、実際に行って見て途方もない広い国だと実感した。
●往路トロントに近づいたころ、窓から見下ろすと次々と大きな湖が現れるが、一つの湖を越えるのに20〜30分かかるものがあった。
●カナダでは、東海岸−西海岸間の時差が3時間もあり、同じ区間の距離(国道1号線)は約8千キロで、これはバンクーバーと成田間の飛行距離にほぼ等しいとのことである。
●従って、カナダの国内交通も、飛行機中心であり、鉄道バス等は主として観光用とのこと。
効率(時間、費用等)から見てビジネス用としては飛行機がベストとなっている。
●カナダは面積909万平方キロ(日本の27倍)とあるが、ちょっと想像できない。人口分布はアメリカと国境を接している南部(面積で60%くらいか)に偏っており、北部の極北地区は3準州で、7万人強と殆ど無人に近いが面積は40%くらいを占めている。
●従って、現在は、経済的には南部にほぼ全面的に依存しているわけであるが、国土が広大であることは、将来的には種々の面で大きな可能性を持っていることになる。

3.カナダはやはりイギリスの影響が強く残っている
●カナダは歴史的に見るとやはりイギリス連邦の一部という雰囲気が濃いと思う。東部地区はフランス植民地(ケベック州)とイギリス植民地(オンタリオ州)が本国同士の抗争の結果、イギリスの植民地となり、それが英国から独立して、カナダ連邦(1867年)となったものである。ケベックシティはフランス植民地の中心であったが、合併後イギリス人も多く住んでいたようで、そのころのイギリス風の住宅(ハーフベースメント方式)が受け継がれている。
●オーストラリアでもそうであったが、カナダでも英国女王の肖像や、名前が使用されている例が非常に多い。
 ・通貨−紙幣・硬貨にエリザベス女王の肖像
 ・地名−ブリティシュコロンビア州、プリンスエドワード島
 ・公園−クイーンエリザベス公園
 ・ホテル−フェアモント・クイーンエリザベス
●ケベック州はフランス語が公用語になっているが、特に英語圏の各州と異なった雰囲気は感じられず、カナダ全体としてはイギリス連邦との縁が現在でも非常に強いと思われる。かって,ドゴール大統領が,カナダ来訪時に、ケベック州の集会で、ケベック独立演説をし、大きな外交問題になったとのこと。最近でもケベック独立運動が時々起こるとのことである。しかしケベック州は経済的にも最有力の州なので、カナダ全体としては、独立は絶対に認められないそうである。
●アメリカとの関係−カナダは南部で全面的にアメリカと国境を接しており、特に東海岸側では、アメリカの主要都市ニューヨーク等が比較的近い。国境は橋一つ超えればアメリカであったり、主要工業地帯の五大湖の対岸がアメリカであったりする。その他の面でもアメリカ大リーグがカナダにホーム球場を持っていたりして、現在では、経済・文化等でも、アメリカとの関係が非常に深いと思われる。

4.カナダの連邦制について
●州会議事堂、州の旗
カナダは現在13州(10州+3準州)の連邦制であるが、各州の自治権、独立性が非常に強いと思われる。ケベックシティ(ケベック州都)、ビクトリア(ブリティッシュコロンビア州都)を見物したが、いずれも州会議事堂が主な観光スポットの一つとなっている。例外なく歴史を感じさせる荘重な建物であり、ランドマーク的な存在となっている。また、州の旗(歴史を織り込んだデザイン)が必ず掲揚されており各州の権威と独立性を主張していると思われる。
●国税と州税−消費税に相当するもの
カナダの税金についても、州により多少差があるようで、各州の権限が、日本よりかなり強いと思われる。消費税に該当する物品・サービス税は下記のとおり。
国(連邦)税率 州税率 
・一般州7%7〜8%
・極北3準州70
*アルバータ州70
*アルバータ州は石油産出、観光等で裕福なため
●日本では地方自治権拡大(政府から地方自治へ)が難航しているが、カナダでは歴史的にも各州の自主性、独立性を尊重するシステムになっていると思われる。

5.カナダの都市の印象(ケベックシティ・モントリオール・カルガリー・バンクーバー)
●新市街−旧市街
 カナダの主要な都市を周遊して、いずれの都市も非常に広々として、清潔で、美しいという印象を受けた。どの都市も地域的に新市街と旧市街が分かれている。旧市街の道路は狭いが、建物も歴史を感じさせる建物が残っている一方、小さな商店、レストランが並び賑やかな街並である。ところどころに小さな広場もある。
 新市街は新しいビルが並び(日本のような超高層ビルではない)、道路も広く、街路樹もたっぷりあり、緑豊かな公園がところどころにある。ホテル、銀行、官庁などが中心。
●日本の都会は、高層ビルと小さな商店街が混在していることがあるが、そういうことはないようで、すっきりした感じである。おそらく旧市街は部分的にリニューアルしたりせずに、新たに計画的にまったく新しい街(新市街)を作っていくという感じである。モントリオール、カルガリー、バンクバー等は、比較的近年に、EXPO,オリンピック(夏・冬)が開催されたのを機会に、新市街が大規模に開発されたのではないかと思われる。
●住宅
 新市街にも高層マンション等は見当たらず、大通りをちょっと入ったところに、一戸建て住宅が並んでいたりするが、結構広い道路と、街路樹、街灯が整備されており、それぞれ芝生庭付きで、ゆったりした感じである。
 家屋は木造1階建てでこじんまりしたものが多い。建て方は、ハーフベースメント方式(半地下構造−地面すれすれに窓がある半地下室を持っている)で、外見上は1階建てであるが実際には2階建てで英国式とのこと。

紀行文を書いてみませんか
 −旅行記作成の心得−

 相変わらず中高年の旅行ブームが続いています。
 旅行には3つの楽しみがあるといわれています。出発前の計画や準備の楽しみ、旅行中の楽しみ、旅行後の写真やビデオの整理や編集の楽しみです。そしてもう一つ旅行後の楽しみとして紀行文を書いてみませんか。写真やビデオに旅行記が加われば思い出がさらに鮮やかになります。
 最近、旅行記を目にする機会が多くなっていますね。何か書いてみようと思ったとき一番手軽なテーマが旅行記です。非日常的な体験をまとめることは、日常的なことを書くよりずっと簡単なのです。手賀沼通信にご寄稿いただいた文章も旅行記が一番多くなっています。
 そこで「旅行記作成の心得」をまとめてみました。

1.旅行記を書く目的を明確にする
 先ず旅行記を書く目的をはっきりさせましょう。自分や家族のための記録として取っておくために書くのか、他の人に読んでもらうために書くのかということです。さらに、他の人に呼んでもらう目的の場合、クラブや同好会の会報等に載せて読んでもらうためなのか、不特定多数の読者に読んでもらうためなのかということです。
 目的によって旅行記の書き方が変わってきます。不特定多数の読者を対象にするときは、「読んで楽しい紀行文」でなければ読者は途中で読むのをやめてしまいます。

2.旅行の記録として残す場合の書き方
 まず旅行の記録として書く場合を考えてみましょう。旅行記で一番多い書き方です。基本は出発から到着までを、×月×日という見出しで、何処へ行った、何をした、何を見た、何を買った、何を飲み食いした、誰と一緒だったなどと日記風にまとめます。書き手にとっては一番書きやすく、またあとで読みなおすと思い出が沸いてきます。初めて旅行記を書く人でもとっつき易いのです。
 もし計画や準備の段階での記録を残したければ、それを前段に持ってきます。出発後は旅行中に取ったメモをもとに詳細にまとめます。ページ数や読者を意識する必要はありません。自分や家族のためを考えて楽しくまとめましょう。写真やスケッチがあればそれを該当する日付に文章と一緒にはめ込むと楽しくなります。写真は単なる風景だけの写真より自分や同行者の写真を中心にしたほうが思い出に残ります。買ったものや食べたものなどの値段なども出来るだけ入れておきましょう。

3.仲間に読んでもらう場合の書き方
 クラブや同好会のメンバーなどを対象に会報等に載せて読んでもらう場合は、通常読者は書き手を知っています。一緒に旅行した仲間も読むことになるでしょう。この場合、仲間と興味や関心や思い出を共有するようにまとめるのがいいと思います。写真もみんなで一緒に取った集合写真が不可欠です。同行した仲間の行動や言葉や感想を入れると、より親しみのある旅行記になります。
 通常ページ数が限られているため、日記風に書く場合は省略できるところを思い切って省略し、メインイベントや見せ場に焦点を絞って書く必要があります。出来ればテーマを決めて見出しをつけて書いたほうが面白い旅行記になります。
 明るい感じと楽しい雰囲気を出すように心掛けてください。

4.不特定多数の読者に読んでもらう場合の書き方
(1)相手に伝えたいメッセージがポイント
 不特定多数の読者が対象の場合、読んでもらわないと意味がありません。以前ある人から「旅行記はカラオケと同じで本人は楽しんでいるが他の人はあまり関心がない。相手に訴えるものが必要だよ。」と云われたことがあります。
その人は多分記録を残すために書いた旅行記を見て言ったのだと思います。この種の旅行記はこれから同じところへ行きたいと思っている人、あるいは同じところへ行った経験のある人は興味を持ってくれますが、そうでない人は最後まで読んでくれないかもしれません。
 ×月×日のスタイルの旅行記が不特定多数の読者に歓迎される数少ないケースは、秘境の探検記とか冒険の記録などです。めったに経験できないため生の記録が読者に訴えるのです。秘境ではありませんが四国八十八ヶ所を歩いてまわった記録などもそのままの記録が生きてきます。一方、誰でも行けるツアーや観光旅行では日記風の旅行記は特別の場合を除いて評判は芳しくありません。
 読んでもらうためのポイントはその旅行記の中に「書き手から読者へのメッセージがあること」だと思います。書き手は読者にとって赤の他人の場合が多く読者は書いた人には最初は興味はありません。読んでもらうためには、読者に何がしかの価値をもたらす内容でなければ途中で投げ出してしまうでしょう。
 司馬遼太郎の「街道をゆく」は私が理想とする究極の旅行記ですが、全43巻の作品の中には司馬さんからの無数のメッセージが込められています。2度読みましたが読むために新しい発見がありました。
 ではどんなメッセージを伝えるのか、行った場所の、人々、地理、風土、景色、政治、経済、社会情勢、歴史、宗教、国づくりなどをとりあげ、感想や意見や評論などを交えながら、読者に訴えたいことをまとめるのがメッセージです。明快に相手に訴えることが必要で、書き手の人間性が文章の中に窺えることがポイントです。

(2)メッセージをうまく伝えるには
 先ず伝えたいメッセージがなにかを決めることから始まります。それは旅行中のメモや写真や集めた資料などを眺めながら記録と記憶を熟成させているうちに沸いてきます。思いがけないときに突然ひらめくこともあります。その時にはそれをすぐメモしましょう。私の場合記憶力が減退したせいか、アイデアをメモしておかないと次の瞬間に忘れてしまい、思い出すのにえらい時間がかかることがしばしばです。
 そしてそのメッセージを見出しにします。私の場合は3つから5つくらいの項目に分けて見出しをつけ、一つの旅行記をまとめるようにしています。メッセージを伝える書き方では、×月×日を見出しにしてはいけません。
 プライベートな記述は思い切って省略しましょう。写真は自分の記念写真よりその土地の景色や人々を写した写真の中から、メッセージにあったものを選びます。スケッチを描いて入れれば最高です。現地の人の言葉や同行者の言葉を入れたり、名作から名文を引用してもいいでしょう。

5.一味違う旅行記を書くには
 最後にどの場合にも共通する「一味違った旅行記」を書くヒントを述べてみます。
(1)事前の調査を充分に
 NHK「街道をゆく」プロジェクトチームの「司馬遼太郎の風景」の中に、『「街道をゆく」の取材が、書斎の中からはじまっていることはつとに知られている。山のような資料・文献に目を通し、必要とあれば関係者にも会い、話をきく。現地に出かける前にたっぷりと助走をつけ、十分にイメージをわかせるだけの支度を整えてからスタートするのである。』という記述がありました。
 「旅行記を書くため」ばかりでなく単に「旅行をするだけ」であっても、事前に訪問先に関する調査をして出かけると、感激が一段と大きくなります。名所旧跡を訪ねる場合は、特に歴史の知識があれば得るところが違います。
 旅行案内書1冊に目を通したり、インターネットで情報を得ておくだけでも違うようです。

(2)こまめにメモをとる
 旅行中はポケットかウェストポーチに手帳とペンを入れておいてこまめにメモをとっておくとあとで役に立ちます。バスの中でのツアーガイドの説明は貴重な情報源です。観光のメモ、買い物のメモ、食事のメモ、時間や金額、お天気、感想や気分などなんでもメモをする習慣をつけましょう。ホテルに落ちついて記憶をたどりながらメモしてもいいでしょう。観光地での資料やパンフレット、チケットや入場料の半券、切符や搭乗券も取っておきます。
 デジカメやカメラつきの携帯もメモ代りになります。観光地の案内板などはデジカメで写しておき、パソコンで拡大すると十分読めます。
 司馬さんの取材ノートをみると、細かくメモを取っているのがわかります。スケッチもいろいろ書かれていました。すばらしい旅行記も最初は×月×日という形でのメモ取りからはじまると言ってもいいでしょう。

(3)文章は簡潔に
 文章は簡潔に書きましょう。だらだらとした長い文章より、短い文章を積み重ねるほうが読み易い文章になります。優れた作家の文章は必ずといっていいほど短い文章になっています。
 いま、五木寛之氏の「百寺巡礼」を読んでいますが、簡潔な文章で人の心を打つ内容になっているのに大変感銘を受けています。
 また旅行記のトーンは「明るく楽しく前向きに」書くようにしましょう。

(4)味付けをする
 前にも述べましたが、写真やスケッチなどを挿入して文章に彩りを添えましょう。俳句や川柳や短歌などの心得がある方はそれを入れると一層印象に残る紀行文になります。
 旅行記は旅行会社の観光案内ではありません。書いた方の思いが込められていて、初めてすばらしい旅行記になると思います。

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