郵政民営化関連法案は10月11日衆議院本会議で、14日には参議院本会議で可決され成立いたしました。前回はご存知の通り5表差での衆議院通過、参議院では否決されました。今回は衆議院議員選挙での自民党の圧勝を反映し、異例のスピード審議で成立しました。
 成立したのは次の6法案です。
 ・ 郵政民営化法
 ・ 日本郵政会社法
 ・ 郵便事業会社法
 ・ 郵便局会社法
 ・ 独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構法
 ・ 郵政民営化施行関係法整備法
 今日のテーマはその「郵政民営化」です。「郵政民営化」という言葉は前から親しんでいましたが、恥ずかしながら中身についてはほとんど知りませんでした。
 成立した法案は読んだだけではなかなか理解できません。そこで「郵政民営化の基本方針」と「郵政民営化だけではない」をまとめてみました。「郵政民営化の基本方針」は平成16年9月10日に閣議決定されたもので、郵政改革関連の6法案の元になった方針です。「郵政民営化だけではない」は小泉総理が郵政民営化は改革の原点と言っていた事を思い出し、私が感じている郵政民営化に絡んだ改革を考えてみたものです。どちらも、にわか勉強で正確に理解できているかどうか不安ですが、参考にしていただければと思いまとめてみました。あちらこちらから寄せ集めた知識ですので、まとまりのないところはお許しいただきたいと思います。
参考文献:
 「決戦・郵政民営化」猪瀬直樹 PHP研究所
 「郵政民営化の虚構」石原洸一郎 リヨン社
 読売新聞、日経新聞、朝日新聞の社説ほか
参考HP:日経ネットhttp://www.nikkei.co.jp/
      首相官邸http://www.kantei.go.jp/
      内閣官房郵政民営化準備室http://www.yuseimineika.go.jp/index.html

郵政民営化の基本方針

1.なぜ民営化しなければならないか
 小泉総理は、内閣官房郵政民営化準備室のホームページでその理由を次のように述べています。
 『郵政民営化が小泉内閣の進める改革の“本丸”であるというのはなぜでしょうか。
 第一に、郵貯や簡保の資金は、これまで特殊法人の事業資金として活用されてきました。かつては重要な役割を果たしていた事業であっても次第に使われ方が硬直化し、国鉄や道路公団などに見られたように大きな無駄を生じさせ、結局国民の税金で補填しなければならない例もありました。郵政民営化が実現すれば、350兆円もの膨大な資金が官でなく民間で有効に活用されるようになります。
 第二に、郵政民営化に対して、身近にある郵便局がなくなってしまうのではないかという心配の声をいただきます。かつて国鉄や電々公社が民営化されて、鉄道や電話がなくなったでしょうか。そんなことはありません。むしろ従来よりサービスの質が向上したり、代替するサービスが工夫されたりしています。全国に津々浦々に存在する郵便局のネットワークは、私たちにとって貴重な資産です。民営化すれば、民間の知恵と工夫で新しい事業を始めることが可能になります。
 第三に、郵便、郵貯、簡保は、果たして公務員でなくてはできない事業でしょうか。郵貯は銀行が、簡保は保険会社が同じようなサービスを提供しています。宅配便や信書便ができて、郵便と同様あるいは郵便にないサービスを既に民間企業が提供しています。外務省の職員は世界各国の大使館員も含めて6千人、警察官は全国に24万人です。しかし、郵政公社には40万人の公務員がいます。郵政民営化が実現すれば、国家公務員全体の約3割をも占める郵政職員が民間人になります。
 さらに、第四に、郵政公社は、これまで法人税も法人事業税も固定資産税も支払っていませんが、民営化され税金を払うようになれば国や地方の財政に貢献するようになります。また、政府が保有する株式が売却されれば、これも国庫を潤し財政再建にも貢献します。将来増税の必要が生じても、増税の幅は小さなものになるでしょう。』

2.民営化するとこうなる
 民営化は2007年10月にスタートし、2017年9月末に完了します。いまの郵政公社は、機能ごとの4つの会社、窓口ネットワーク会社、郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社と純粋持ち株会社の5つの会社になります。そして郵貯と簡保の旧契約を管理するために公社継承法人を設立します。
 それぞれの会社の業務は次のようになります。
(1)窓口ネットワーク会社
 郵便、郵便貯蓄、簡易保険の3つの事業は別々の会社に引き継がれますが、それぞれ支店を持つと効率が悪くなり規模も小さくなります。窓口ネットワーク会社は今の郵便局を残すため考えられた会社で、3事業会社から窓口業務を受託します。
 それ以外に、地方公共団体の特定事務、年金・恩給・公共料金の受け払いなどの公共的業務、福祉的サービスなど地方自治体との協力等の業務を受託したり、民間金融機関からの業務受託の他、小売りサービス、旅行代理店サービス、チケットオフィスサービスの提供、介護サービスやケアプランナーの仲介サービス等地域と密着した幅広い事業分野へ進出することもできます。
(2)郵便事業会社
 従来の郵便事業(窓口業務は窓口ネットワーク会社に委託)に加え、広く国内外の物流事業への進出が可能になります。高齢者への在宅福祉サービス支援、情報提供サービス等地域社会への貢献サービスは、適切な受託料を得て引き続き受託します。
 また、引き続き国際郵便などの郵便のユニバーサルサービスの提供義務が課されます。信書事業への参入規制については当面は現行水準を維持し、その代わり料金決定には公的な関与を受けます。特別送達等の公共性の高いサービスについても提供義務を課されます。このために必要な制度面での措置は今後の詳細な制度設計の中で検討することになります。
(3)郵便貯金会社
 今までは別の法律が適用されていましたが、民間金融機関と同様に、銀行法等の一般に適用される金融関係法令に基づき業務を行います。(窓口業務や集金業務は窓口ネットワーク会社に委託)  新旧契約の分離を行い、旧契約ついては公社勘定とします。公社勘定は公社承継法人が保有し、その管理・運用を郵便貯金会社が受託します。運用に当たっては、安全性を重視します。
 郵便貯金会社は民間企業と同様に納税義務を負うとともに、新規契約分から郵便貯金の政府保証を廃止し、預金保険機構に加入します。
(4)郵便保険会社
 こちらも、今までは別の法律が適用されていましたが、民間生命保険会社と同様に、保険業法等の一般に適用される金融関係法令に基づき業務を行います。(窓口業務や集金業務は窓口ネットワーク会社に委託)
 新旧契約の分離を行い、旧契約ついては公社勘定とします。公社勘定は公社承継法人が保有し、その管理・運用を郵便保険会社が受託します。運用に当たっては、安全性を重視します。
 民間企業と同様に納税義務を負うとともに、新規契約分から郵便保険の政府保証を廃止し、生命保険契約者保護機構に加入します。
(5)純粋持株会社
 経営の一体性を確保するために、国は、4事業会社を子会社とする純粋持株会社を設立します。郵便貯金会社、郵便保険会社については、移行期間中に株式を売却し、民有民営を実現します。その際には、新会社全体の経営状況及び世界の金融情勢等の動向のレビューも行います。民営化後も国は、持ち株会社の発行済み株式総数の3分の1を超える株式は保有します。
(6)公社継承法人
 郵貯と簡保の旧契約とそれに見合う資産勘定(公社勘定)を保有する法人を、郵政公社を承継する法人として設立します。公社勘定の資産・負債の管理・運用は、郵便貯金会社及び郵便保険会社に委託します。

民営化の移行期と最終の形は次ページのようになります。


3.民営化はどんな視点から行われるか
 郵政民営化を進めるに当たっての基本的視点は4機能が、民営化を通じてそれぞれの市場に吸収統合され、自立することが重要です。
(1)経営の自由度の拡大
 民営化した後、イコールフッティング(競争条件を対等にすること)の度合いや国の関与のあり方等を勘案しつつ、郵政公社法による業務内容、経営権に対する制限を緩和します。最終的な民営化においては、民間企業として自由な経営が可能になります。
(2)民間とのイコールフッティングの確保
 民間企業と競争条件を対等にします。民営化に伴って設立される各会社は、民間企業と同様の納税義務を負います。郵貯と簡保の民営化前の契約(旧契約)と民営化後の契約(新契約)を分離した上で、新契約については、政府保証を廃止し、預金保険、生命保険契約者保護機構に加入します(通常貯金については、すべて新契約とする)
(3)事業ごとの損益の明確化と事業間のリスク遮断の徹底
 各機能が市場で自立できるようにし、その点が確認できるよう事業ごとの損益を明確化します。金融システムの安定性の観点から、他事業における経営上の困難が金融部門に波及しないようにするなど、事業間のリスク遮断を徹底します。たとえば郵便事業の赤字を郵便貯金の黒字で補うようなことはできなくなります。

4.郵政民営化の今後の課題はなんだろう
 郵政民営化は決まりました。ただこれは法律が決まっただけのことで、実際の改革はこれからです。私たちは改革を見守っていく必要があります。
 読売、日経、朝日の社説などとその後決まった「日本郵政株式会社」のトップの人選などから次の課題をまとめてみました。
 第一は改革を円滑に行うための人です。来年1月には経営委員会が発足します。メンバーには新会社のトップが入ります。政府はトップに三井住友銀行前頭取の西川善文氏を選びました。取締役には高木祥吉前金融庁長官と団宏明日本郵政公社副総裁を充てることになっています。3人のトップが民営化を良い方向に持っていくかどうかを注視していく必要があります。また来年4月には新会社のお目付け役である郵政民営化委員会が設立されます。民営化の状況をチェックし、問題が出てくれば政府に直言する役目も持っています。
 第二は改革のスピードです。法律では完全民営化までに最長10年をかけるとしています。変化の激しい時代に10年はあまりにも長すぎます。貯金会社と保険会社の株式は2007年10月の民営化から3年程度で上場される見込みですが、市場が許すなら10年といわずできるだけ早く株を手放し完全民営化を図るべきです。そして政府の関与をできるだけ早くなくすべきです。間接的にせよ政府の後ろ盾があれば競争条件が異なり、民業を圧迫することにもなります。

郵政民営化だけではない

1.改革すべきところはこんなにある
「ポスト郵政」の改革として日経の社説は次ぎの改革を挙げています。
政府のリストラ
 ・ 政府系金融機関の改革。廃止や民営化
 ・ 公務員の定員や総人件費の削減
 ・ 道路等の特定財源、特別会計の見直しと改革
 ・ 国と地方の税財政改革(三位一体改革)
その他の改革
 ・ 医療制度改革
 ・ 年金制度改革
 ・ 消費税を含めた税財政改革
 ・ 規制緩和
 ・ 市場化テスト(官民競争入札)
 ・ 通商政策改革(国内の市場開放など)

 日経は与野党で「政策を競え」といっています。
 私は競うより、共通するところは早く実行しろと言いたいです。いま国会議員の年金制度改革が検討されています。ところが国会議員は自分たちの懐にかかわるだけになかなかまとまりません。小泉さんは「国会議員の一致をみて改革を進めたい」といっています。今のままでは改革はお流れになりそうです。できるところからやればいいのです。最初から理想案を掲げて結局はお流れになるより少しずつ改革を進めていけばいいのです。

2.特殊法人(独立行政法人)の改革が必須
 今回の郵政民営化は「入口」の改革と言われています。お金を集める「入口」が郵便局です。ところが日本を揺るがすような問題を起こしているのは、郵便局が集めたお金の使われ方なのです。「私たちは悪いことはしていない」という郵便局員の言葉は間違いではありません。銀行員以上に立派に働いているといえます。
 郵便局が集めた350兆円もの膨大なお金(国民資産の約4分の1)が金融市場に出ず、全部ではありませんが、特殊法人などに垂れ流しになっていたのです。2001年までは財政投融資の財源でした。郵貯や簡保のお金が道路公団などに融資され、回収できなくなっています。いわば公的不良資産です。これが「出口」問題なのです。
 特殊法人の多くは赤字です。ところが特殊法人のファミリー企業は儲かっています。ファミリー企業は特殊法人の天下り先です。
 「入口」を民営化しても、「出口」問題を解決しない限り改革は実を結びません。次は特殊法人の廃止、民営化を図る必要があります。道路公団の民営化がスタートしましたが、どういう効果があがるか見守っていく必要があります。

3.銀行は意識改革を
 銀行はリストラや不良債権処理が進み株価もかなり持ち直してきました。しかし国民に対するサービス機関という観点で捉えると改革はできていません。ぜひ意識改革をして欲しいと思います。
 石原洸一郎氏の「郵政民営化の虚構」によると郵便局は庶民の味方、銀行は悪玉です。土地所有者に無制限に貸し込んでバブルを演出、バブル崩壊の後は貸しはがしと貸し渋り、世界に類を見ない超低預金金利で自分の身を守り、預金者の資産は食い潰し、郵便局の倍以上の手数料を取り、給料は郵便局の倍近くをもらっていると書かれています。郵政を民営化して郵便局が銀行のように庶民の味方でなくなるのは大反対と書かれています。
 私もお金を振り込むときは郵便局が利用できる場合は銀行は使いません。郵便局から銀行に直接振込みができるようになっても郵便貯金銀行の振込手数料は下げないで欲しいと願っています。銀行の手数料は最高で840円もかかります。クロネコ大和の宅急便は何人もの人の手を煩わして重い荷物を運んで1000円ちょっとです。銀行はせいぜい窓口の人手くらいで、あとはコンピュータが数字を付け替えるだけです。。ガソリンは値上がりしていますが、コンピュータは格段に安くなりました。低金利と高手数料の銀行が自らを変える必要があります。庶民の味方になるような意識改革が望まれます。

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