テキスト ボックス: 高齢者の豊かな生活のために                    1999年2月20日発行
手 賀 沼 通 信 (第11号)  〒270-1147 千葉県我孫子市若松151-3
  (TEL&FAX:0471-83-2898) (E-mail:y-nitta@mvc.biglobe.ne.jp)          新田良昭

  今月は年金問題の続きです。

  先月号の記事に対して、「年金制度の解説はあまり興味ありません。所詮なるようにしかならないから。…」というお葉書をいただきました。そのはがきを前にして考え込んでしまいました。年金がなるようにしかならないなら、税制や景気や政治だってなるようにしかならないのではないかと…。
  また、年金改正の話になると「私は既に年金をもらっているのですが、その改正で私の年金額は変わるのですか」とよく聞かれます。「いやこれはこれからもらう人だけですよ」と答えると、その人はとたんに興味を失ってしまいます。
  確かに自分に関係のないことは、いろいろ考えてもしょうがないかもしれません。しかし、年金は次の世代によって支えられている制度であり、自分の子供や孫に大きな影響を与える制度なのです。
  私ももらっている一人ですが、もらっている人も含めてみんなで考える問題ではないでしょうか。ちょうど地球環境の問題が次の世代に大きな影響を与えるのと同じように…。


年金問題を考える(その2)

2.年金を取り巻く諸問題

  現在討議されている年金をめぐってのいろいろな問題とそれに対する改革案は、将来の年金給付と保険料負担のバランスが崩れ、現役世代に過大な保険料負担がかかってくるという恐れから出てきています。その第1の原因は世界に類を見ないスピードでやってくる少子高齢化社会であり、第2の原因はバブル崩壊や金融不安による超低金利政策といえます。これらの問題に適切な手を打つには今をおいてありません。問題を先送りしてはならないのです。

  ただ残念なのは、今論議されている年金問題は、厚生省という1つの省の年金制度という捉え方が中心となっており、労政、雇用、税制、社会福祉、金融政策などと結びつけた総合的な視点、各省庁の縦割り行政の範囲を超えた視点が欠けていることです。たとえば年金財政は保険料を払う人が増えて受給する人が減れば改善されます。60歳を過ぎた高齢者の雇用の場や、女性がパートでなく生涯働けるような職場環境を作っていけば、年金問題も変わってきます。社会や経済のトータルな立場に合わせた年金改革が論じられることを願ってやみません。

  さらに年金改革を複雑にしているのは景気回復とのからみです。年金問題をこのままにはしておけないが、といって今国民の負担を増やして景気回復の足をひっぱってはいけないといった懸念から、年金財政をさらに悪化させる措置がとられようとしています。そして厳しい経済情勢は、さらに将来を見通した改革案の策定と実施を先送りにする可能性があります。

  それでは現在の問題を見て行きましょう。

(1)厚生省の年金改革案(平成10年10月)

●昨年10月厚生省より3つの改革案が出されました。

主な給付抑制案

標準年金月額(現在では24.2万円)

削減率

1案

・厚生年金部分5%削減
・部分年金の廃止

23.7万円

2%

2案

・厚生年金部分15%削減

22.6万円

7%

3案

・厚生年金部分10%削減
・基礎年金10%削減

21.8万円

10%

  この改革案は、平成9年12月に厚生省が出した5つの選択肢の流れを汲んでおり、昨年9月の年金審議会の意見書を参考にしたものといえます。

●厚生省は3つの案の内、60歳台前半の部分年金を廃止しなければ年金の削減率が大きくなる他の2つの案を示すことで第1案の妥当性を強調しています。

●改革案のその他の概要は次のとおりです。
  ・物価スライドは残すが、5年毎に行っていた賃金スライドは廃止
    賃金水準が上がっても年金は上がりません
  ・60歳台後半の在職老齢年金制度の導入
  65歳までは年金が出なくなります。雇用の場を新たにどう確保するかの問題が出てきます。
●次の4つの点は前向きのものとして評価できます。
  ・ボーナスを含めた年収からの保険料の徴収
  ・国民年金の半額免除制度の創設
  ・学生の国民年金保険料納付の卒業までの猶予
  ・育児休業期間中の厚生年金保険料の事業主負担分の免除

(2)平成11年度予算案の保険料引き上げ凍結

●来年度予算の大蔵原案では景気への配慮を理由に来年度実施予定の国民年金と厚生年金の保険料の引き上げは凍結されようとしています。
  ・国民年金保険料  13,300円のまま。予定では14,000円になるはずだった。
  ・厚生年金保険料  月収の17.35%(これを労使折半)のまま。予定では19%になるはず

●この凍結により、2000年度以降は、凍結分を含めて余分に保険料を引き上げることになり、将来に付けを回したことになります。

(3)国民年金の未加入者、未納者

●昨年2月末発行の平成9年度版年金白書によると、国民年金第1号被保険者の未加入、未納等の状況は次のようになっています。
  ・未加入者  158万人
  ・加入者   1936万人
    −保険料未納者  172万人
    −保険料免除者  334万人
    −保険料納付者  1430万人

●つまり第1号被保険者となるべき人の32%が保険料を払っていないことになります。免除者は別にして、未加入者や未納者は無年金者となる可能性があり、国民皆保険制度に反します。

●未加入の理由は53.8%の人が「加入したくない」で、46.2%の人が「知らなかった」といっています。また未納の最も主要な理由は、「保険料が高く経済的に払うのが困難」が55.4%、「国民年金をあてにしていない」が20.8%、「うっかりして忘れた」が゙3.6%となっています。

●厚生年金や共済年金と違って、第1号被保険者にとっての国民年金は、支給額の低い老齢基礎年金だけであり、一家の柱を失った時の遺族基礎年金も子供が大きくなるともらえない制度になっているため、サラリーマンや公務員のように主に年金に頼って生活できるわけでありません。

●一方では保険料は定額制となっているため所得の低い人には保険料負担が重くのしかかり、ひいては制度そのものへの不信感が増幅してきているのではないかと思います。

(4)国民年金の財源をどうするか

●国民年金は支給総額の3分の2を保険料で拠出し、3分の1を税金に頼っています。国民年金については関係者の間では以前から今のとおりの保険方式でいくべきか全額税金で賄うべきかの議論が行われていました。

●ところが昨年から景気対策や政局がらみでこの問題が大きく取り上げられ、2000年からは、国庫負担率が3分の1から2分の1に引き上げられる見通しとなっています。

●一方では消費税を福祉目的税にして国民年金の財源に当ててはという意見が強くなりました。ただ国民年金の保険料を全額福祉目的税でまかなうには税率を8.2%にする必要があるといわれており、その他介護保険(平成12年度より介護保険料約2500円を年金より天引き予定)や老人保健(老人医療費の急増により健康保険組合が危機に直面している)など他の福祉との関係や税制全体との整合性などいろいろ問題を含んでいます。

●保険でなく税金でまかなえと主張する人は、税方式にしたら(3)の未納者、未加入者の問題はなくなるし、(5)で出てくる第3号被保険者が保険料負担をしていない問題も解決すると言っていますが、確かに一理あると思います。

●ちなみに他の先進国の場合は次のとおりです。
  ・保険料   日本、イギリス、オランダなど
  ・一般税収  オーストラリア、ニュージランド、デンマーク、カナダなど
  ・一般税収+目的税  スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、など
  アメリカ、ドイツ、フランスなどは所得比例の年金のみで国民年金に相当する制度はありません。

(5)女性の年金問題

●女性の年金についての問題は、先月号でも述べましたように年金発足時の一般的な家族の形態、つまり男性が一家の稼ぎの中心で女性は専業主婦として家庭を守るという考え方が、今の時代に合わなくなってきたことから出てきたものです。

●第3号被保険者(サラリーマンや公務員の被扶養配偶者)は国民年金の保険料を払う必要がありません。これに対し働く女性から不公平というクレームがついています。「親掛かりの学生でさえ毎月保険料を払わなければならないのに、なぜ専業主婦はただなのか。女性を家庭に閉じ込める政策誘導ではないか。」という声が上がっています。

●専業主婦が離婚した場合、基礎年金を受け取れる権利は残りますが、夫名義の厚生年金や共済年金を分割することは出来ません。「家庭は2人で守ってきたのだから、家庭での女性の働きを認めないこの制度はおかしい」と考える女性が増えてきています。

●共働きの女性の夫が死亡した場合、残された妻は従来は夫の遺族年金か自分の老齢厚生年金かのどちらかを選択しなければなりませんでした。平成6年の改正で、3つめの選択肢として遺族厚生年金の3分の2と自分の老齢厚生年金の2分の1を足した金額を選ぶことが出来るようになりました。
  しかしこれでも夫の遺族年金が一番多い場合自分の保険料は掛け捨てとなり、専業主婦に比べてまだ働く女性の不公平感は解消されていません。

●さらに別の観点から、年収130万円未満のパート労働者にも厚生年金を適用すべきという意見もありますが、これはパートの女性と雇用主の両方が反対しています。

●以上の問題は年金審議会でも取り上げられましたが、突っ込んだ議論にはいたらなかったようで、明快な解決策の提示はなく引き続き検討することで終わりました。理由の1つに、昨年6月に総理府が公表した「公的年金制度に関する世論調査」で、専業主婦の保険料負担免除について現行通りでよいと答えた人が58.5%で、徴収すべきとした27.4%を上回ったこともあるようです。

(6)年金積立金の運用

 ●2月2日の日経新聞に「厚生省によると99年度の厚生年金の保険料収入は、209800億円で初めて前年度(217100億円)を下回る見通しだ。景気低迷の影響で保険料を納めるサラリーマンの数や月収が減少すると見ているためだ。」とあります。また112日の同紙には「厚生年金積立金の運用利回りは、98年度は4.2%に下がり、予定利率5.5%5年連続で下回る。予定利率は99年度から4.0%に下がるものの運用利回りも99年度は4%を割り込む見通し。」と出ていました。いずれもショッキングな記事です。

●厚生年金と国民年金を合わせた積立金は平成10年度末には約139兆円に達します。この積立金は現在全額大蔵省の資金運用部に預託され郵便貯金等とともに統合運用されています。いわゆる財政投融資、問題の財投です。
  なお、厚生省は年金改革に合わせて資金運用部への預託制度を廃止して市場での自主運用に着手する計画を進めています。

●厚生省の特殊法人に年金福祉事業団があります。事業団は年金積立金の一部を資金運用部から財投金利を払って借り入れいろいろな事業を行ってきました。平成11年の財政再計算時に年金資金の運用の新たなあり方に結論を得て廃止されることになっていますが、この年金福祉事業団のやってきたことに問題がでてきています。

●年金福祉事業団は予定利率を上回る収益を上げることを目的に独自に市場運用事業を始めましたが、低金利の影響を受け平成3年以降資金運用部からの借り入れ利息が、運用利息を上回りました。今から2年前の平成8年度末でさえその累積赤字が14000億円に達しています。儲けようと思って始めたのに赤字を出しているわけです。

●また、大規模年金保養基地整備事業としてグリーンピアと呼ばれる宿泊、スポーツ、文化の総合施設を全国に13ヵ所作りました。ところが利用客の減少によりほとんどの施設で赤字となり、また民間の業者からから「無駄遣いの上民業を圧迫している」とクレームをつけられています。県や市に移管したくても引き受け手がいないといった状態になっています。

(7)厚生年金基金の危機

●厚生年金基金は、厚生年金に加えて、老後の多様な要望に答えより豊かな年金を給付するための手段として設けられました。通常企業単位や業界単位で設立され、老齢厚生年金の一部を代行して給付しこれに独自の上乗せ年金を合わせて給付するようになっています。なお設立は任意ですので基金を設立していない企業もあります。

                             網掛け部分を基金が支給

 

基金独自の年金  

老齢厚生年金(下記を除く)

 

 

代行部分        

老齢厚生年金(スライド・再評価部分 )

老齢厚生年金(スライド・再評価部分)

老齢基礎年金

老齢基礎年金

       基金がない時                 基金を設立した時

●代行部分は予定利率が5.5%になっているため、バブル期以前のように高利回りの運用が可能であった時は基金の財政を潤しており、基金独自の年金の原資にもなっていました。ところが低金利時代の到来とともに、代行給付に必要な運用益をあげることが出来ず、平成4年度以降5.5%を下回る利回りとなっており、母体企業が穴埋めしたり、基金を解散する例が相次いでいます。

●そのため厚生省では厚生年金基金制度の見直しに取り組み、給付水準変更の弾力化や資産運用規制の緩和などを実施してきました。しかし基金財政の悪化は広がっているため、99年度には資産運用規制をすべて撤廃し、2000年度には代行給付の返上を認めるよう制度改正を予定しています。

(8)確定拠出型年金

●今の年金はあらかじめ年金額が決まっている確定給付型の年金です。これに対して保険料を一定にし、その運用によって給付額が決まってくる確定拠出型年金が注目を浴びています。

●確定拠出型のモデルとされているものにアメリカの「401kプラン」があります。これはアメリカの内国歳入法第401条k項に規定する要件を満たした確定拠出型の私的保障制度です。

●確定拠出型年金の長所は
  @運用は加入員の責任で行うため母体企業が後で不足分を負担する必要がない。
  A加入員が運用方法を選択できる。
  B転職しても転職先の企業で継続できる。
  一方短所は
  @投資リスクを加入員がすべて負う
  A給付額が事前に確定しないため老後の生活設計が不確定になり易い

●しかし「確定拠出年金」の言葉が一人歩きしている感じもありもっと中身をつめる必要があります。

いずれにしても年金は私たちの老後を支える大きな柱です。受給者とそれを支える現役世代両者の立場に立った改革が望まれます。

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