テキスト ボックス: 高齢者の豊かな生活のために     2000年5月20日発行      新田ライフプランニング
手 賀 沼 通 信 (第26号)         〒270-1147 千葉県我孫子市若松151-3
  (TEL&FAX:0471-83-2898) (E-mail:y-nitta@mvc.biglobe.ne.jp)                 新田良昭 
  http://www.mercury.ne.jp/koyukai
 

 3月28日、もめていた年金改革関連法案がやっと成立しました。年金審議会が平成9年5月に検討を開始してから実に2年10ヶ月かかりました。年金は5年に1度の財政再計算の年に、それ以後の給付と負担のバランスや所得の伸びを考えて再検討される事になっているのですが、その再計算の年が昨年度だったのです。年度末ぎりぎりの成立でした。
 そして4月には介護保険がやっとスタートしました。保険料や介護サービスの価格が最後になるまでまできまらず、現場は大混乱でした。まだその影響が尾を引いているようです。

 そこで今月のテーマは「年金と介護保険」といたします。
 年金改革がこんなに延びた原因はいろいろあります。急激な少子高齢化や経済不況が年金改革に影を落としたこともありますが、何よりもまして年金改革が日本のおそまつな政治の争点としてクローズアップされたことです。年金問題は単に年金だけでなく、少子高齢化社会を前提として将来の日本の進むべき方向、例えば日本の経済構造改革や財政再建や労働市場の将来動向や高齢者の生活などを見据えて、年金の将来ビジョンを明確にした上で決定すべきものなのです。ところが年金改革が、自公民と野党とのどちらに有利に働くかという観点からでしか捉えられなかったのが実態です。

 介護保険も同様です。政治家の一言で介護保険の運用が変わってきました。その一言はお年寄りや介護者のことを考えてのものではなく、自分の影響力や力を見せつけるだけのものでした。真面目に準備を進めていた市町村は困惑しました。 
 今の政治家には、国民のためを思って行動するという人はいないのでしょうか。よく「これでは選挙は戦えない」という言葉を聞きますが、自分の事しか考えない政治家ばかりなのでしょうか。
 ちょっとボヤキが多くなりましたが、年金と介護保険を理解する上で多少でもお役に立てればと思いまとめて見ました。


年金改革でどう変わる

1.年金関連法の概要

@厚生年金の支給開始年齢

 年金改革でおそらく一番大きな影響を与えるのは支給開始年齢が引き上げられることでしょう。

 改革前の制度では、昭和16年4月1日以前生まれの人は60歳から全額支給され、それ以降に生まれた人は全額支給は生まれ年によって違うものの、60歳から報酬比例部分(満額の約2分の1)は受け取れるようになっていました。改革案では昭和28年4月2日以降生まれ、つまり今年4月1日現在で46歳(女性の場合は41歳)以下の人からその比例報酬部分の支給開始も1歳ずつ引き上げられ、 昭和36年4月2日生まれ以降の人からは65歳になるまでは年金が全く支給されないこととなります。

平成12年4月1日時点の年齢

支給開始年齢

男性

女性

基礎年金部分

報酬比例部分

59歳以上

54歳以上

60歳

60歳

57―58

52―53

61

60

55―56

50―51

62

60

53―54

48―49

63

60

51―52

46―47

64

60

47―50

42―45

65

60

45―46

40―41

65

61

43―44

38―39

65

62

41―42

36―37

65

63

39―40

34―35

65

64

38歳以下

33歳以下

65

65

 支給開始年齢の繰上げが始まるのは平成25年ですが、この頃は少子高齢化がさらに進んで国民の4人に1人が65歳以上と予想されていますので、65歳までは働ける、働かざるを得ない社会が来ると考えられます。

A減る厚生年金の受取額

・改革法案では、今年の4月から新規に年金受給者となる人は、比例報酬部分が5%減額されると決まりましたが、3月以前に受給を開始した人との不公平感が生じないように現行の年金額に物価上昇分を加味した額を保証する経過措置が取られるため、実際に削減されるのは平成16年度からになるようです。

・60歳以上で働いた場合、改革前は65歳未満は年金が減額されるものの65以上になると年金は全額もらえました。改革案では65歳以上70歳未満の人も年金を減額されます。ただ減額される額は65歳以上の人のほうが少なくなります。

・5年ごとに現役世代の賃金をもとに年金額を見なおす賃金スライドという制度がありました。いわば年金のベースアップともとれる制度でしたが、凍結され物価の変動に応じて年金額を変える物価スライドだけになります。

B保険料はどうなる

・厚生年金も国民年金も保険料は当分の間据え置きです。これは景気への配慮と言っていますが、本音は選挙対策でしょう。前制度では国民年金保険料は毎年500円の増額が決まっていましたし、厚生年金保険料も給付と負担のバランス上当然引き上げられるものと予想されていました。
 このままで行けば予想以上の少子高齢化の進展と年金財政の維持を考えると将来保険料が引き上げられることは間違いありません。この際思いきって財源を保険方式から税方式に換えることを本気で検討する必要があると思います。
 消費税率を増額し増額分を福祉の目的に使うのです。これは年金改革の第一人者、高山憲之一橋大学経済研究所教授が以前から主張されておりますし、小渕内閣の戦略会議でも提案されています。経団連や連合も賛成しています。現役世代だけに保険料負担を押し付けるのではなく高齢者も含めて広く負担するのです。高山教授の試算によると、消費税率を3.3%アップすると、年金保険料率の軽減が可能で、将来にわたっても保険料率は上げる必要はないそうです。
また、税方式にすると第1号被保険者の内の900万人にも上るドロップアウト(未加入者、未払い者、支払い免除者)、保険料の逆進性(高額所得者も低所得者も同額)、第3号被保険者(専業主婦など)の保険料免除の不公平などの諸問題が一気に解決します。

・平成14年から65歳以上70歳未満の高齢者も在職中なら保険料を負担することになりました。1985年の改革以前の状態に戻ったわけです。65歳を過ぎてパート契約でなく、厚生年金や共済組合の被保険者としてきちんと報酬を得ているのは高級官僚や企業の経営者が多いことを考えると当然のことかもしれません。

・現在はボーナスから引かれる保険料は1%ですが、平成15年度からは月給とボーナスから同率で差し引く総報酬制が導入されます。今まではボーナスの割合が多い大企業の従業員や経営者と話し合って意図的に月給を減らしボーナスを多くする人などに有利になっていました。保険料負担の公平性を考えるとなぜもっと早く実施しないのか疑問に感じます。

・今までも国民年金の保険料を払いきれない人は申請すると免除になる制度がありましたが、新たに半額を免除する制度が出来ました。半額免除の場合は全額免除の人に比べて年金額が増えることになります。選択肢が増えることは良いことでしょうが、なんとなく中途半端で事務費だけ増えることになり、はたしてこれが国民年金への信頼感を取り戻せるかどうか疑問です。

・現在国民年金(基礎年金)の保険料は国がその3分の1を拠出していますが、2004年度までに2分の1に引き上げる事になりました。財源は未定です。

2. 便利になったポイント

 年金改革には受給者に厳しい改革だけでなく、次のような評価できるポイントもあります。

@育児休業中の保険料事業主負担を免除

前制度では、保険料は育児休業中の本人については免除されていましたが、事業主は保険料を支払う必要がありました。これは育児休暇を取りにくくする原因の一つになっていたかもしれません。子供を安心して産み、育てる環境づくりの一端として、事業主負担を免除することになったのでしょう。

A国民年金保険料の学生の追納制度

国民年金は20歳になれば働いているかどうかにか変わりなく加入するのが国民の義務となっています。20歳以上の学生を抱える所帯にとって、毎月13300円の保険料は学費や生活費とともに大きな負担になっていました。今年の4月からは、年間所得68万円以下の学生は申請に基づき保険料の支払いが猶予され、10年以内に保険料を納めればいいことになりました。
 ただ、親の負担は軽くなりますが、卒業後滞納した保険料を払わなければならないことから、若者の国民年金離れに拍車をかけることのないよう歯止めを考える必要があると思います。

3. 考えても良い国民年金の繰上げ受給

国民年金繰上げ受給削減率

受給開始年齢

現行

見直し後


削減率
(%)

逆転年齢

削減率(%)

逆転年齢

60歳

42

72

30

77

61歳

35

73

24

78

62歳

28

73

18

79

63歳

20

74

12

80

64歳

11

74

81

 国民年金の受給開始年齢は65歳ですが、早く年金が欲しい人は申請すれば60歳から受給することが出来ます。ただ繰り上げ受給した場合は年金の受取額は減額されしかも一生減額されたままです。今まではその削減率は懲罰的ともいえるほど高率でした。例えば60歳で受給を開始すると年金額は42%カットされます。72歳まで生きれば65歳で受給を開始した人より利子を考慮しなければ年金合計額は少なくなります。

 理由は1961年に国民年金制度を創設するさい、当時の生命表を使って定められたからです。今から40年近く前の事です。日本人の寿命は大幅に延びました。
 厚生省では政令を上記の表のように改正し、2001年から実施する方針です。
 今までは相談を受けると、「早死する自信がある人以外は65歳まで待ちなさい」と繰上げ支給はしないよう薦めてきました。しかし今後は繰上げ支給の損得はどちらともいえないようです。しかも今までは1年単位で削減率が決まっていましたが、新制度では月単位で、0.5%ずつきめこまかく適用することになっています。

 今後の年金改革についての方向と諸問題をわかりやすく解説した本として
PHP新書102 「年金の教室」 高山憲之著 
       PHP研究所発行 660
があります。

 また今回の年金改革の概要については、厚生省のホームページ
 http://www.mhw.go.jp
に出ています。


介護保険が始まった

 41日から介護保険がスタートしました。新聞などでは色々な問題点と曲がりなりにも動き出している状況が連日のように出ています。
 昨年1年間、介護保険についていろいろ勉強しました。我孫子市の介護保険の説明会に出たり、公民館の社会教育ゼミの勉強会に参加したり、外部の介護保険のシンポジュームに出席したりしました。新聞の切抜きを集めたり書籍や雑誌を購入したりもしました。特別養護老人ホームや療養型病床群の病院の見学も行いました。それでもわからないところがありました。おそらく介護が必要なお年寄りや家庭での介護者にはわからないところだらけだと思います。
 介護保険については、前項の年金のように解説するつもりはありません。私の率直な感想を書いてみたいと思います。

1.まだまだ理解されていない介護保険

  なぜ介護保険はまだまだ理解されていないのかを考えてみました。制度が発足したばかりということもあるでしょう。スタート直前まで変わったり決まらなかったことが多く十分説明する時間がなかったということもあるでしょう。でもそれだけではないような気がします。
 何よりもわかりにくくしているのは制度の複雑さです。介護サービスを受けるにはまず被保険者が申請をする必要があります。黙っていてはいつまでたってもサービスは受けられません。申請が受け付けられると市町村の職員等の訪問調査があり、その調査に基づく85項目についてコンピュータにかけられて1次判定が行われます。2次判定は保険・医療・福祉などの関係者数名によって1次判定の結果、医師の意見書、訪問調査の際の特記事項などを参考に要介護認定が行われ、自立、要支援、要介護1〜5が決まります。自立以外の人はサービスを受ける資格が出来ます。でもこれではまだサービスは受けられません。ケアマネージャー(介護支援専門員)によるケアプラン(介護サービス計画)の作成が必要なのです。受けられるサ―ビスの内容は要介護度によって変わります。しかもサービスは色々な種類に分かれており、本人や介護者の希望を聞いて適切な介護計画を立てるのがケアマネージャーです。そのプランが出来てやっとサービスの提供がされるのです。ひっそりと暮らしている一人暮しのお年寄りなど簡単に理解出来るものではありません。健康保険のように保険証を持っていけばすむというものではありません。

 別の観点から見てみましょう。
 介護保険に関わるのは、制度を創り運用する側、サービスを提供する側、サービスを受ける側の3つに分けられます。

 まず一つ目の問題点です。制度の中身を作ったのは厚生省です。自公民がその中身をいじくりました。例えば65歳以上の第1号被保険者の保険料は、直前になって9月までは徴収見合わせ、その後の1年間は半額、2001年10月から全額徴収となりました。また、訪問介護のサービスは当初「家事援助」と「身体介護」の二つでしたが、これも直前になって「複合型」を加えた3種類になりました。ケアプランの作成が遅れた原因の1つになったのです。
 一方制度を運用するのは市区町村です。大筋は厚生省で決めたルールに沿う必要がありますが、市区町村の裁量で自由に決められる部分があります。例えば、第1号被保険者の保険料は、提供できるサービスの質や高齢化率などにより市区町村で異なっています。また収入に応じて保険料は5段階になっていますが、流山市のように高額所得者からより多くの保険料が徴収できるよう6段階にすることもできます。市区町村に運用を任した以上当然の事とはいえ、違いが生まれることによりわかりにくさは増しています。これも健康保険が全国一律で、どこでも同じように医療サービスが受けられるのとは大違いです。
 そして市区町村の介護保険についての行政機関の取り組み姿勢次第で住民の理解度が違います。住民に対して熱心にPR活動をし情報を公開しているところとそうでないところとの差は歴然としています。

 2つ目はサービスを提供する側です。今まで高齢者介護施設や介護サービスを支えてきた市区町村、社会福祉法人、医療法人などに加えて、株式会社やNPOなども参加できるようになりました。これはサービスを受ける側にとっては選択肢が増えることになり良いことです。うまくいけば競争が増えることによって質も向上します。しかし悪い話もちらほら耳にします。病院が介護ビジネスの参入を図ってプレハブの療養型病床群を作っているとか、入院者の安くなるはずの個人負担が減らないとかです。また、業者の中には利益を多く出すため介護の質より量というところも出てくるでしょう。ケアマネージャーが自分の所属している組織のサービスしか薦めないこともあるかもしれません。どこの施設やサービスを選んだら良いか、お年寄りや介護者も迷ってしまいます。

 3つ目はお年寄り自身の問題です。介護保険の対象者となるのは75歳以上の高齢者が多いのですが、現に介護されている人やその年齢で親や配偶者を介護している人達を除くと、お年寄り自身があまり介護保険に関心がなく知ろうとする努力が足りないような気がします。私の家に同居している義父も介護保険には全く興味を示そうとしません。関心を持たない限り理解は出来ないでしょう。
 今の75歳位から上のお年寄りは老人としては一番幸せな世代です。確かに若いときは戦争の真っ只中で、自ら戦場に赴いたり、一家の主人や主婦として家族を守るという厳しい現実に直面しました。亡くなった方も数多くいます。
 しかし生き延びた人はもっとも恵まれた老年を迎えています。大正15年4月1日以前生まれの人は年金は減額されずにフルにもらっています。老人保健法で医療のメリットも最大限享受しています。以後の世代は老人の数が増えるためそうはいかなくなるでしょう。また、自分たちの親が早死にだったり兄弟が多かったりで、老人の世話に明け暮れていた私の母のような例外を除いては、自ら親の介護の苦労を経験した人は少ないのです。しかし子供達からは手厚い介護を受けています。施設に入居しているお年寄りも十分な介護を受けているのです。介護保険のねらいが介護される人より介護する人の手助けになることを考えると、介護保険に関心が少ないのも無理からぬことかもしれません。

2.おとしよりの心のケアをどうするか

 今まで在宅介護で派遣されているヘルパーの役目はお年寄りの介護や家事の援助だけでなく、お年寄りの話を聞いたり雑談したりいろいろな情報を提供したりすることでもありました。それが一人暮しの老人や介護に疲れた介護者の生活の支えになっていました。ところが介護保険では時間あたりいくらという料金制度のもとに介護ビジネスの世界になってきます。ゆっくり話し相手になっているわけにはいかなくなります。お年寄りの寂しさを慰める道が閉ざされかねません。介護される人の心のケアをどうするかが大きな問題となってくるのです。

 流山市にさわやか福祉の会「流山ユー・アイネット」という家事援助や介助・介護のサービスを提供しているNPO第1号の団体があります。ここでは1時間800円の「ふれあい切符」と呼ばれる時間預託点数券を利用し会員がお互いにサービスを受けたり提供したりしています。介護保険開始にあたって、サービス事業者の指定を受けました。介護保険になれば1時間800円というわけにはいきません。資格を持ったヘルパーがその数倍の料金でサービスを提供することになります。あるセミナーでその団体の代表の米山さんは、次ぎのように答えていました。「今までのサービスを止めるつもりはありません。それが皆さんの支えになっているからです。ヘルパーさんが介護サービスを終わったら、必要なら今まで通りのサービスを提供します。そのときはいわばエプロンを裏返しにして1時間800円のふれあい切符のサービスになるのです。」

3.関心を持って運用をしっかり見定めよう

 今まで介護保険の問題点ばかり述べてきました。しかし介護保険は世界でもドイツに次ぐ2番目の制度です。世界1のスピードで高齢化が進む日本にはなくてはならない制度だと思っています。そのためには少しずつでも問題点を解決して、より良いものにしていく必要があります。
 介護保険をきっかけに運用の主体になっている各自治体が創意工夫を凝らすようになってきました。腰の重い市区町村のお役人たちも頭と手と足を使わざるを得なくなったのです。新しい試みをはじめた自治体には全国の注目が集まっています。また介護サービスを提供するNPOも続々と生まれています。コムスンやベネッセのような福祉ビジネスのすぐれた企業も出てきました。競争原理が導入されて、いままでの福祉提供の主体だった社会福祉協議会も安閑としてはいられません。
 また、市民ボランティアによる「介護オンブズマン」も生まれています。自治体の運用を見守り、利用者とサービス事業者との橋渡し的な活動は利用者の権利保護と制度の改善にはなくてはならないものと考えます。

 そして何よりも必要なことは、私達一人一人が介護保険について関心を持ち、理解を深め、自分達の市区町村において制度がどのように運用されているかを知ることだと思います。
  出来れば介護保険のお世話になることなく、親も自分も配偶者も死ぬときは「ことっ」と行きたいと誰もが思っていることと思いますが、こればかりはなかなか思うようにはならないものです。長生きをすればするほど介護のごやっかいになることでしょう。
 介護保険に関心を持って運用をしっかり見定めることが私達一人一人の務めだと思っています。

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