テキスト ボックス: 高齢者の豊かな生活のために     2000年6月20日発行      新田ライフプランニング
手 賀 沼 通 信 (第27号)         〒270-1147 千葉県我孫子市若松151-3
  (TEL&FAX:0471-83-2898) (E-mail:y-nitta@mvc.biglobe.ne.jp)                 新田良昭 
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 今月のテーマは「資格」です。
 10年くらい前からサラリーマンやOLや学生の間に資格取得の動きが広がりました。長引く不況の影響や将来のためのキャリア形成などが資格取得に拍車をかけたと言われていますが、今も根強く続いているようです。ただ応募する資格の内容は少しずつ変わってきました。
 いま人気の資格は、IT革命と介護保険にからむ資格でしょう。IT関連では、以前から通産省の情報処理技術者試験がありましたが、最近ではマイクロソフト社やロータス社などが行っているソフトウェア製品やITのノウハウに関連した資格が人気を博しています。情報処理技術者試験は国家資格ですが、国家資格にありがちな一般的抽象的な内容にかたよっているため、民間資格でも即戦力となる資格の価値が見なおされてきたのではないかと思います。
 介護保険が始まり介護が身近なものになったこともあって、ケアマネージャーやホームヘルパーの資格の応募者が増えています。介護保険を支える人材がたりないことも資格取得の追い風となっているようです。
 さらに生活の質の向上や人生をいろいろ楽しみたいという希望や環境をよくしようという動きが、幅広く新しい資格を求めるようになってきました。
 私も数年前までは懸命に資格を追っかけていました。その体験を通して感じたことをまとめてみました。多少なりとも資格取得を目指す方々のお役に立つかもしれません。


資格取得奮闘記

 私が資格取得に打ちこんだのは平成3年、54歳からでした。定年が見えてきてそろそろ何かそれまでと違ったことをしてみたいと、別に不動産業に関係するというつもりはありませんでしたが、軽い気持ちで宅建の資格取得に挑戦してみました。バブルは崩壊してもまだ不動産は資産として中心を占めており、宅建の資格が時代の脚光を浴びていたのです。前年のピーク時には宅建の申込者は43万人にも達しました(現在は半分以下に減っています)。申込みに行った千葉市の不動産会館は私と同じような老若男女で長蛇の列だったのを覚えています。
 そして宅建の試験に1回でからくも合格したのが資格取得にのめりこむきっかけとなったのでした。資格取得は簡単だと誤解したわけです。資格との戦いが始まりました。あまりに熱中するため一時は家族からビョーキ扱いでした。
 私が今までに取った国家資格、公的資格は次の通りです。

宅地建物取引主任者 

平成3年(54歳) 受験回数1回
 不動産業者は従業員5人に1人この資格を持った人を置く必要があります。受験者の多い資格の定番ともいわれた資格です。
 勉強は通信教育を3回くらい繰り返しやったのを覚えています。資格学校や模擬テストは受けませんでした。いまは難しくなりましたが、当時は試験数ヶ月前の土日を中心とした独習でも合格できました。不動産取引に絡む幾つかの法律が対象です。私の場合は民法で苦労しました。試験は大体10月の第3日曜に行われます。情報処理試験と英検も同じ日に行われる事が多く、これらの資格を2つ以上受けたい人はどれかに決めなければなりません。このあたりも各省庁の縦割り行政の弊害が現れていると思います。

国内旅行業務取扱主任者、一般旅行業務取扱主任者 

平成4年(55歳) 受験回数1回
 旅行代理店を開くことのできる資格です。一般のほうを取ると海外旅行と国内旅行の両方の取扱が可能となります。当然国内のほうがやさしい試験になっています。いずれの試験も平成8年に大きく改正されましたが勉強する内容は私の受験した頃とあまり変わってはいないようです。楽しみながら勉強することのできた資格でした。受験者も若い女性が多く、私の年代の男性の受験者はほとんどいませんでした。国内,一般とも通信教育で勉強して、一般についてだけ2日間の「合格対策セミナー」に通いました。国際航空運賃の計算が難しく通信教育だけでは理解できなかったからです。割引運賃がまかり通っている今の世の中で正規の航空運賃の計算を勉強するのはばかばかしい話ですが,これが国家試験なのかもしれません。しかし合格率が高く楽しい内容でしたので資格試験の中で一番楽に受けることが出来ました。
 日本アイ・ビー・エムを退職する際、関連会社でこの資格が役に立つかもしれないと考えたのですが、甘かったようです。その代り海外旅行をする際にはそのとき学んだことが旅行の楽しみを倍化させてくれています。

社会保険労務士 

平成5年(56歳) 受験回数1回
 社労士は労務と社会保険に関する法律が試験の範囲です。高齢化社会に向けてカバーする範囲が広がり,年々資格の人気が高まっています。合格率も10%以下でかなり難しい試験です。
 必死で勉強した資格でした。もう一度あのときのような勉強をしろといってもできる自信はありません。最初は宅建や旅行と同じように通信教育から入りました。始発駅で座れるため通勤電車の中が勉強部屋となりました。テキストは3回くらい読み、過去問題集に繰り返してトライしました。日本ライセンスセンターの「答案作成講座」「直前急所対策講座」「集中問題解説講座」「一般常識特訓講座」を受講し,模擬試験は2回受けました。試験は7月28日でしたが、試験前3ヶ月は,土日は1日10時間くらい,平日は帰宅後2時間ほど勉強しました。
 若いときは何でもすぐ覚えられますが,50歳代も半ばを過ぎると記憶力は落ち,人の2倍〜3倍の努力が必要です。2度受けるつもりはなかったので他の事を犠牲にして集中してやりました。
 他の資格は合格後は何もしていませんが、ライフプランとして社労士の「年金」と英語だけはその後も続けて勉強しています。

行政書士 

平成6年(57歳) 受験回数1回
 行政書士の仕事は官公庁に提出する書類作成や権利義務に関する書類の作成など大変範囲の広い仕事をカバーします。極端で失礼な言い方をすれば日本のお役所仕事となかなか緩和されない規制のためにこの資格が存在するといってもいいかもしれません。資格試験の内容と開業した後の仕事の内容がこれほどかけ離れている資格も他にあまりありません。試験問題の一部には憲法とか大学の入学試験の常識問題のような内容が入っています。
 8月3日の税理士の試験が終了したあと、すぐ行政書士の勉強に取りかかりました。税理士は落第を確信していました。行政書士の試験は10月の第4週です。約2ヶ月半あります。通信教育のテキストはその前から確保していました。集中してやりましたが,社労士や税理士に比べると楽な勉強でした。内容がやさしいのとアバウトなのです。苦手な民法も,宅建、税理士を経験して3度目でした。
 1回での合格を目指して,東京リーガルマインドの「一夜漬け講座」と3回の模擬試験を受けました。

ビジネスキャリア制度の(人事・労務・能力開発)2科目 

平成7年(58歳) 受験回数1回
 平成5年7月アコムの教育部顧問となり社内の資格取得促進の責任者となりました。アコムでは社員の能力開発に役立つ資格については、通信教育の費用を負担したり一時金を支給するなどの促進策を取っていました。責任者として社員と一緒に受験して率先垂範を試みたのがこの資格以後の3つです。

 労働省はサラリーマンの能力開発を図るためビジネスキャリア制度を大々的に発表しました。アコムでもこの制度を社員のレベルアップに結びつけようと最初から力を入れ、人事部や教育部所属社員に声をかけて大勢の社員が受験しかなりの合格者をだしました。
 ところがこれがあまり意味のない資格だということがわかりました。資格ではなく労働省が指定した学校を卒業した人の認定制度だというのです。この試験は一定の学校を卒業すれば問題なく受験資格が得られますが,実務についている社員は一定の年数がたたなければ受験できないのです。実務の経験がなく学校で数ヶ月学んだ人が試験を受けて合格してもビジネスキャリアとはいえません。
 労働省と東京都の制度の責任者に制度の矛盾と改善点を文書で提出しました。後で聞いた話では本当かどうか知りませんがその文書が国会議員の目にとまったそうです。確かにそのうちの幾つかは翌年から改善されていました。それは私の手紙というより,あまりにも当たり前のことが当たり前に行われていなかったせいでしょう。翌年からはばかばかしくなって取得促進を中止しました。いまではサラリーマンからすっかり無視されてしまっているようです。お役人が机上で考えて失敗する典型といえると思います。

初級システムアドミニストレータ 

平成9年(60歳) 受験回数2回
 この資格は情報処理技術者試験の1つで、企業でパソコンやシステムを導入するとき、ユーザー部門で導入の責任者となる人に必要な知識をテストし資格として認定するものです。パソコンを業務で使っている人には親しみの持てる資格で楽しい資格といえます。パソコン好きならちょっと勉強すれば合格できます。アコムでは大勢の社員が受験し大勢の合格者を出しました。私は1回目はほとんど勉強せずに受けたら見事失敗しました。試験会場はほとんど全員が若者で、高齢者が大学受験の予備校に迷い込んだような感じでした。
 一般的な内容なので即戦力となるにはマイクロソフト社などの認定試験のほうが評価されるかもしれません。

英検準1級 

平成9年(60歳) 受験回数1次3回 2次2回
 英検は1級から5級まで7段階あり、TOEICなどと違って合格か不合格の結果が出ます。英語の実力を測るにはTOEICのように点数で出すほうが格段に合理的です。合否の場合はオール・オア・ナッシングで不合格者の力は測りようがありません。
 アコムでは従来から英検の資格に一時金を出して取得を促進してきました。私も行きがかり上何度も受験しました。そしてやめる数ヶ月前にやっと合格しました。退職時にはTOEICテストを提案しましたが,その後の事は聞いていません。英検は1級しか評価されないとか準1級以上ならよいとかいわれていますが、試験内容は必ずしも実用的なものではありません。準1級になると普段あまりお目にかからない単語や表現が出ています。
 試験は地元の中学校で受けました。受験者はやはり若者が多く,女性が圧倒的です。企業人はほとんどいませんでした。 英語の実力判定は、企業の中ではTOEICに統一されていくのではないかと思います。

 平成6年57歳のときに、税理士の資格試験を受験しました。落ちたから言う訳ではありませんが、常に疑問を抱きながら勉強していました。この試験のいいところは5科目を合格すればよく、合格した科目は翌年以降も有効で、何年かけても5科目になればいいのです。
 ところが試験のやり方がばかばかしいのです。私はまずはじめに相続税法を選んだのですが,試験は相続税法や通達の内容をいかに正確に暗記し,それを決められた時間内に記述できるか、計算問題はルールに従っていかに決められた時間に結果を出せるかです。極論すれば丸暗記と電卓をたたくスピード競争です。
 考えながら書いていくと必ず時間が足りなくなります。40歳代,50歳代の合格が難しいのは明らかです。税務署で実務経験のある人は試験が免除ですので年齢に関係がありません。知恵の競争でなくスピード競争にして合格を難しくし、新規参入を出来るだけ減らそうという魂胆の見える試験でした。

 今は資格試験からすっかり遠ざかっています。私の場合、必要な資格を取って活かすより合格するのが目標になっていたように思います。ただ、そこで学んだ事は無駄なものではないのでこれからの人生に活かして行きたいと考えています。


資格を活かすには

 資格を活かすなら資格を取得することは目的でなく、資格取得は単なる手段でありそこはスタート地点に過ぎません。大学入試は受かるのが目的でなく,そこから本当の学問生活が始まるのと同じです。資格は活かさなければ取った意味がないといえます。
 私の場合は「士業」としては開業していませんし,資格に関連する会社に勤めているわけでもありませんので意味のない例の代表かもしれません。高齢者の豊かな生活のためにと税務署に登録した新田ライフプランニングも、今のところは高齢者のためでなくもっぱら新入社員の育成のためにお役に立てています。本来の目的に沿ってやっているのは手賀沼通信の発行くらいです。お金にはなっていません。

 私がまだ現役の頃ある研修会で、中小企業診断士の資格が取れたため一流企業を退職し、コンサルタントの看板を掲げた人に会いました。なかなか仕事がないので研修会で勉強しながら顧客を探しているとのこと、苦労話をたっぷり聞かされました。
 開業したあと顧客がいないとやっていけません。有名人や特殊技能のある人は別として、顧客は向こうからやってくるのではなく営業努力で探さねばならないのです。資格が取れればすぐ仕事があると考えたとすればとんでもない間違いです。
 資格を取ったあとさらに専門的知識をつけ、色々な会合に顔を出し,情報を集め、自分を売り込む事が必要です。もし資格で生計の道をたてようと思うなら、50歳台,60歳台でなく,なるべく早いうちから取りかかることが必要だと感じています。

 私の尊敬する人で手賀沼通信をお読みいただいている方に、資格コンサルタントの高島徹治さんがいます。高島さんは61の資格(昨年3月頃の数字で今ではもっと増えているかもしれません)をもっており、資格学校やテレビなどで活躍されていて、資格や勉強法などの著書も数多く出しています。その高島さんによると開業して成功するためには、「忍耐力」「アイデア力」「人脈力」「信用力」「商機力」「宣伝力」「協調力」の7つの要素が不可欠とのことです。


資格取得に挑戦しよう

 アコムで教育部顧問として資格取得促進に努力していた頃,教育部の機関紙に書いた文章があります。
 資格取得は資格で仕事する人だけに限ったものではありません。なるべく多くの人に資格取得に挑戦してもらうためにまとめたものです。
 若者向けに書いたのですが、中高年にも通用するのではないかと思いご紹介いたします。


資格取得促進記事「資格取得に挑戦しよう」から
(1)資格取得の持つ意味

 「資格とは自己アイデンティティの確認である」と言う人がいます。おそらく資格取得の持つ意味は、資格を取る人によって、また資格の種類によってそれぞれ異なってくることでしょう。テレビや新聞などでは、よく、学生は就職に少しでも有利になるのではないかと思い、若いビジネスマンやOLは将来のキャリア形成を考え、中高年はリストラに備えて資格取得に打ち込むといった光景が報道されます。世の中の資格取得の機運は高まっています。
 ところが、資格は取ってもそのままでは役に立たないとか、活かさなければ意味がないとも言われます。また、資格を取ってもただそれだけで職場での評価が上がることはないでしょう。
 それでも資格に挑戦する人が増えているのは、資格取得が、自己実現の1つの手段であり、自分の能力の再確認の意味を持つとともに、自分に対して自信を深めて、人生にメリハリをつけることになるからだと思います。資格取得によってすぐ何かを期待するのではなく、あくまで「自分で自分をほめるため」くらいの気持ちでいた方が失望しないですむかもしれません。そしてその資格が将来自己実現のうえで大きな意味を持てば「儲けもの」と言えるのではないでしょうか。

(2)資格の種類

 資格の数はいろいろ合わせると2千を超えると言われていますが、正確な数はなかなかつかめません。なかには医師や弁護士のようにその資格がないと仕事に就けない貴重な資格から、世間からあまり評価されない資格もあります。
 資格の種類を資格を認定する機関によって分けると次の3つです。

 @国家資格−国家が認定する資格。
  国家公務員、美容師、気象予報士、情報処理技術者、危険物取扱者、など

A公的資格−公的な財団・社団が審査・証明し主管大臣が認定する資格(大臣の代わりに財団、社団が認定する準公的資格を含む)。                        
  産業カウンセラー、秘書技能検定、実用英語技能検定、漢字能力検定、など

B民間資格−民間の営利団体や任意団体が認定する資格で玉石混淆。           一太郎検定、フィナンシャルプランナー、ソムリエ、スキー指導員、など

 また、資格をその用途から次のように分けることもできます。

@資格を取得した人のみが業務を行える資格−弁理士、税理士、司法書士、など。この資格を持っていない限り、法に定める仕事に就くことはできません。

A職場に定められた数の資格取得者が必要な資格−宅地建物取引主任者、旅行業務取扱主任者、衛生管理者、など この資格を持っていれば、その業界への就職が有利になることがあります。

B能力を評価するための資格−簿記検定、硬筆書写検定、日本語文書処理技能検定、TOEIC、など。    腕試しに受験して、自分の能力のレベルを知ることができます。

3)資格試験合格への道

 資格試験のためにどれだけ勉強すればよいのかは資格の難易度によってそれぞれ違います。資格試験に関する情報は市販の問題集などにでていますのでよく調べてください。

  まず第1に試験日までの勉強のスケジュールを立てましょう。資格によっては1ヶ月の学習で十分なものもありますが、1年間懸命に勉強しても難しいものもあります。スケジュールは余裕をみてたてることが肝心です。

  第2は勉強の時間を見つける工夫です。少しずつでも毎日続けることが大切です。電車の中とか昼休みとか少しでも暇を見つけて勉強しましょう。それぞれの立場で自分流の時間の作り方を考えてみてください。

  第3はテキストを一通り終わったらあとは問題集中心に勉強することです。少なくとも3回は繰り返してやってみてください。

 合格のキーワードは「集中力」と「合格に対する執念」です。集中力とは、「いかに集中して勉強を続けられるか」と「当日の試験にいかに集中力を発揮できるか」です。合格に対する執念とは、来年のことは考えないで「今年絶対に合格する」と自分自身に言い聞かせることです。
 私も試験を軽く見たり、半ばあきらめながら受験したときは必ず試験に失敗しています。これから資格取得に挑戦される方は、合格証が送られてきた時のことをイメージして、辛抱強く学習に励んでください。しばらくの間は家庭サービスも犠牲にする必要があるかもしれません。

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