テキスト ボックス: 高齢者の豊かな生活のために      2000年9月20日発行   新田ライフプランニング
手 賀 沼 通 信 (第30号)     〒270-1147 千葉県我孫子市若松151-3
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 新田ライフプランニングの看板を掲げて1年以上過ぎました。そこで今月のテーマは、「個人事業の開業」と私の最大の仕事である「新入社員研修」について経験をまとめてみました。 退職して新しい仕事をしようと考えておられる方に多少なりとも参考になればと思います。


個人事業開業と青色申告

1.個人事業の開業

 最近、中高年の起業が増えているとの新聞記事が目に付きます。
 国民金融公庫総合研究所「平成11年度新規開業白書」によると開業時の年齢は1998年度で50歳以上が19.6%と、それまでの3年間では一番多くなっています。
  29歳以下の開業も年々増えていますが、平均年齢は上がってきており、人口の高齢化につれて開業年齢も高齢化してきています。

 平成5年に日本アイ・ビー・エムがセカンド・キャリア・プログラムを発表したとき、早期退職したあとはアイ・ビー・エム・グル−プの企業に再就職するか、グループ外の企業に転進するか、独立開業するかの選択肢がありました。人数は多くありませんでしたが、株式会社や有限会社を設立して開業した仲間がいました。私の場合はグループ外の企業に職を見つけましたが、独立した人達の勇気に感心すると同時にうらやましく思ったものです。
 私も昨年7月1日付けで柏税務署に個人事業の開業届を出し高齢者起業家の仲間入りをしました。といっても株式会社や有限会社を起こした勇気ある仲間とは大違いで、ささやかな個人起業、パパ・ママ・ストアと同じようなものです。個人商店が店舗を構えて商品を仕入れ、売れるかどうかのリスクを抱えて朝から晩まで商売しているのに比べると、自室を事務所にしてパソコンなどホンのわずかな投資のみで、あとは経験と知識と情報と人とのつながりで、仕事が来たときだけ働き小遣い程度の稼ぎしか得ていない状況では威張れたものではありません。
 ただ、これからは高齢化が進むにもかかわらず高齢者の職場が大きく広がらないとすれば、また、年金の支給年齢が引き上げられるにもかかわらず定年がそれほど延びないとすれば、高齢者の個人開業が増加するものと思います。私と同じような経験をする人も増えるのではないでしょうか。

 個人事業の開業は事業開始から1ヶ月以内に「個人事業の開廃業届出書」を納税地の税務署長宛に出すだけですみます。もし事務所を納税地と違うところに置く場合は、事務所を所轄する税務署長にも届を出します。
 株式会社や有限会社のような法人の設立の場合は、複雑で面倒な設立登記の手続きが必要ですが、個人の開業は「本当にこれでいいの」と驚くくらい簡単です。また株式会社で1000万円、有限会社で300万円の資本金が必要ですが、個人事業の場合は特に用意する必要はありません。開業届出書は1枚の用紙で記入は簡単、ちょっと頭をひねることと言えば、屋号と事業の概要くらいです。
 屋号「新田ライフプランニング」は、職業欄に「人材開発および高齢者の生活設計」と記し、事業の概要(できるだけ具体的に書いてください)欄に「新入社員研修・マネジメント研修・ライフプランセミナー等の講師、高齢者の生活設計の相談・講演・文筆活動・コンサルティング等」と記入して提出しました。
 ただ、従業員を雇ったり、配偶者や親、子供を専従者として雇用する場合は別の届出が必要になります。私の場合は従業員なしなので届け出用紙はもらいませんでした。

 納税を青色申告で行いたいときは「青色申告承認申請書」、消費税の課税事業者を選択するときは「課税事業者選択届書」を提出します。私の場合は、開業届出書と一緒に青色申告申請書を出しました。後で述べますが、青色申告にするとメリットがあります。
 開業する事業によっては監督官庁の許認可が必要になります。東京都の場合は次のようになっています。「菓子製造業」「飲食店/喫茶店」「食肉販売業」「アイスクリーム類製造業」「豆腐製造業」「魚介類販売業」「食品製造業等」「食料品等販売業」「公衆浴場等」「旅館業」「興行場」は保健所の許可が、「行商」「クリーニング所」「理容/美容所」は保健所への届出が、「風俗営業」「古物商」は警察署の許可が、「宅地建物取引業」は都庁住宅局の免許が、「一般旅行業及び旅行代理店業」は関東運輸局の許可が、「医薬品の配置販売業」は都庁衛生局の許可が、「酒類販売業」は税務署の免許が必要です。これ以外にも事業によってはしかるべき部署や協会などへの「届出」「登録」「許可」「免許」のいずれかが必要になってくるようです。

 今後インターネットなどのIT技術を使った新しい仕事や、世の中の新しいトレンドをうけた新しい事業などがどんどん出てくると考えられます。個人事業の種類もカバーする範囲も大きく広がっていくのではないでしょうか。
 退職したあとはただ家に引きこもるのではなく、それまでの知識と経験を生かして自己実現に向けて新しいことにチャレンジするのも面白いと思います。それこそ平成12年度の厚生白書にも述べられている「新しい高齢者像」と言えると思います。

2.青色申告

 青色申告についてはそれまで何も知らなかったので本屋をのぞきました。いろんな参考書がありました。そのうちの1冊「自分で青色申告ができる本」を買ってきました。
 確定申告には白色申告と青色申告があります。サラリーマンや年金受給者が確定申告をするときには白い確定申告の用紙を使います。医療費控除などでおなじみの用紙です。この用紙は税法で定められた10種類の所得をカバーしています。これに対し、事業所得、不動産所得、山林所得のどれかがある人は、青色申請を申請すると青色の確定申告の用紙を使用することになります。それで青色申告というようです。

 青色申告にすると記帳義務が生じます。記帳は複式簿記か簡易簿記で行います。簡易簿記は現金式簡易簿記でもかまいません。複式簿記にすると45万円の特別控除が認められます。簡易簿記では特別控除は10万円です。白色申告には特別控除はないためそれだけでも青色申告のほうが得になります。なお白色申告でも前前年の事業所得・不動産所得・山林所得の合計が300万円を越えるときは記帳義務が出てきます。
 青色申告の特典として大きいのは家族への給与を必要経費に出来ることです。私の場合は一人ですのでこの特典は生かせませんが、もし専従者がいるときは控除額として大きな額になると思います。
 青色申告承認申請書を出す時に、「記帳指導を希望する」に○印をつけて提出すると税理士を紹介してくれます。その税理士に記帳方法などについて教えてもらうのは無料です。私の場合は地元の女性税理士がアサインされました。いろいろわからないことがあると電話で問い合わせましたが、その都度親切に教えてくれました。
 また、11月に柏税務署から青色決算説明会の案内が送られてきました。税務署、市役所、市商工会の共済で、「青色申告決算書の作成について」の説明が行われました。税理士が丁寧に指導してくれました。納税者は税務署にとってはお客様のため税務署も親切に応対してくれました。

 青色申告では事業に必要な経費は収入から控除できます。昨年開業する前に所得があったときは申告は雑所得でした。雑所得の場合は経費は交通費など直接的なものしか控除できず、サラリーマン時代には少ないと思っていた給与所得控除を羨ましく思ったものでした。
 私の仕事の場合、商品を仕入れているわけではないので売上原価はゼロです。店を構えているわけではなく、自室がオフィスですので店舗にかかる費用は最小限で済みます。電気代や電話代は自宅と共通ですので仕事で使用する割合を決めて控除できますが大した金額にはなりません。車を軽自動車に買い換えましたが、もともと安かったのと耐用年数や仕事で使う割合や年の途中での買い換えなどで、ほんのわずかしかしか経費に計上できませんでした。
 ただ、仕事の性質上、情報機器や情報収集や研修や書籍や資料の作成や通信などの費用がかかります。交通費もばかになりません。100円ショップで買った消耗品のレシートも大切に保管するようになりました。開業してそのような費用の領収書やレシートをパソコンにインプットする仕事が増えました。小さい金額が多いので半年分でも領収書は結構な分量になりました。
 そして3月の確定申告は青色申告決算書の記入が増えただけで、それまでの確定申告とあまり変わりませんでした。申告の書類を郵送し、わずかの収入に対する追加の税金を納めておしまいでした。
 今年は1月からの1年分なので多少インプットする分量は増えますが作業は変わりません。長年自由業をやっている何人かの人に聞くとあまり税金は払っていないようです。何か節税の方法があるのかもしれません。私の場合勉強が足りないようです。脱税は違法ですが、節税は生活の知恵だと思います。もし詳しい方がおられましたらぜひご教授下さい。


新入社員研修を楽しむ

 今年も3月から8月にかけて約40日間日本アイ・ビー・エム・グループの新入社員研修のお手伝いをしました。この仕事は千代田生命情報システム(CLIS)と契約して,日本アイ・ビー・エム研修システム(LSJ)に派遣されて、1昨年から従事している仕事です。昨年までは、研修コースでのコールテークが主でした。
 コールテークは研修の中のロールプレーでお客さま役や上司の役になり、受講生のプレゼンテーションやコールで話を聞き、受講生の評価をすると同時に、育成に必要なコメントを書く仕事です。評価や育成のコメントはクラスマネージャーがまとめて、受講生の上司や本人に伝えられます。
 今年はコールテーカーの仕事が減り、クラスマネージャーの仕事のほうを多く担当しました。クラスマネージャー、略してCMは、クラスの運営を担当する役目です。

 IBMグループのITエンジニアの新入社員、中途入社社員、社内転属の社員を合わせると400名を超えます。通常のコースでは、2つのグループに分け半数を同時に研修します。1クラスは40人弱ですので、6クラスが同時に走る感じになります。そして各クラスには1人ずつCMが必要になります。コース全体を企画し全体の運営を図るのはコースコーディネーター、略してCCです。
 研修開始は9時ですが、CMは毎日コース開始の前にCC主催のミーティングでその日のスケジュールや注意事項の確認を行います。コース時間中は受講生の出欠確認,健康管理などを始めとして、講義や試験や演習やワークショップのスタンバイ、パソコンの貸出・返却等の管理、機材のセットなど様々な仕事を担当します。CMは講義をすることはまずありません。
 講義はLSJのインストラクターがCCTVを使用して6クラス同時に教えます。各教室に2面の大きなスクリーンがあり、スタジオからインストラクターが自分でカメラを駆使して教材や自分の顔や各教室を写しだして講義をします。受講生は質問があると自分の机の上のボタンを押します。ボタンが押されるとインストラクターは誰が質問者かを確認し、質問者の教室を写しだして質問を受け付けます。質問者の声と回答は全教室に伝わります。CMは講義中は後ろにスタンバイして受講生の緊張感を維持する役目をします。
 CMがその存在感を示す仕事の1つに、クラスの雰囲気を盛り上げて受講生をやる気にさせることがあります。毎日のクラスの始まりと終わりに10分から30分くらいのCMタイムという時間があります。CMタイムはCCより内容を指示されるときもありますが,原則自由に使える時間です。わずかな時間にCMは知恵を絞ってクラスを引っ張ることになります。そこではCMの知識,経験,ノウハウなどとともに,人格,雰囲気,明るさ,やる気などがものをいうことになります。

 現代の若者はしらけているとか,やる気がないとか,目標を失っているとか言われますが,決してそんなことはありません。素直で高い理解力を持っています。たしかに我慢とか忍耐とかハングリー精神とかは縁遠いかもしれませんが,それは彼らの罪ではなく日本の社会がそうなっているからなのです。あるいは戦後の日本の教育制度が悪かったのかもしれません。
 マナーとか敬語などはあまり教えられていないのです。彼らを教える立場にある人だって知らないのかもしれません。私はCMタイムではできるだけ受講生の教えられていないことに触れるようにしています。マネジメント研修では受講者の気に入らないことをしゃべると反発をくらいますが、新入社員研修では納得すればすぐに応じてくれます。目の輝きが違います。
 私達が新入社員研修を受けた頃に比べると、受講生のレベルは年々高まっているように思います。英語に強い受講生やパソコンに慣れた受講生が増えています。一方学習する内容もIT時代を反映して,質量ともに増えています。受講生には研修期間が終わるまで1人1台のノートPCが貸し与えられ、演習やワークショップはPCを使って行います。プレゼンテーションのツールも、OHPから、ロータスのフリ―ランス(マイクロソフトのパワーポイントと同じソフト)とプロジェクターを使うやり方に変わってきています。入社して半年間は研修に明け暮れるわけですが,学習する内容は増えているのに期間は短くなっています。

 半年の研修期間が終わると,それぞれの職場で仕事につきます。職場によって仕事は様々ですが,いずれもITに関連する仕事です。そして翌年の8月に新入社員研修最後のコースがあります。このコースでは1年目の秋から各職場で参加したプロジェクトについてのオン・ザ・ジョブ・トレーニングの報告を行います。今年も50人近くのOJT報告を聞きましたが,どの受講者もすばらしい体験を発表していました。日本を代表するような大企業のお客さまの最先端のプロジェクトに先輩と一緒に参加したり、地方で小さなお客さまを任されて一人で切り盛りしたり,IBM社内の最先端の技術に触れたりと、1年間の成長は目覚しいものでした。このコースを終了すると1人前のITエンジニアとして認められることになるのですが、すでにその資格を立派に備えた受講生が大勢いました。 

 私は今年3回CMを勤めました。5日間のコースが2回と8日間のコースが1回です。CMはコース前日と終了後に3日間、準備や評価などのまとめの仕事があります。1コース終わるとぐったりします。それだけ集中して気を使っているためです。
 それでもCMはやりがいがあります。コールテーカーの仕事も面白いですが,心身ともにきついCMの仕事を楽しんでいます。受講生とは親子以上の年齢差がありますが,その差を考えないようにしています。そのためには日頃からの勉強が欠かせません。今年から「日経パソコン」をとり始めました。日経ビズテックのメールにも毎日目を通しています。
 まだまだCMとしていたらないことが多く,やるたびに反省点ばかり目に付きますが,それが次の成長に結びつくのだと慰めています。
 CMの依頼が来る間はCMをベストを尽くして楽しもうと考えています。

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