テキスト ボックス: 高齢者の豊かな生活のために                       1998年12月20日発行
手 賀 沼 通 信 (第9号)      〒270-1147 千葉県我孫子市若松151-3
  (TEL&FAX:0471-83-2898) (E-mail:y-nitta@mvc.biglobe.ne.jp)             新田良昭

  今月の手賀沼通信は見学記特集といたします。
  11月に裁判所とケア・リハビリセンターへ行ってきました。ケア・リハビリセンターへ行った際には、特別養護老人ホームへも行ったのですが特別養護老人ホームは、第6号で別の施設をレポートしていますので省略しましょう。
  市や区の広報紙には、地域住民のために各種の見学のイベントがでています。ほとんどは平日の企画のため仕事を持っている間は参加できませんが、退職して時間が自由に使えるようになると自分の興味のある催しに参加してみるのも面白いものです。記事にはしませんでしたが、6月には建設省利根川下流工事事務所の主催で利根川の我孫子と取手周辺の災害対策や工事について車で案内してもらいました。
  以下の裁判傍聴記も我孫子市報で見つけた千葉県弁護士会松戸支部の企画でした。
 なおケア・リハビリセンター見学は勉強中の我孫子市社会教育ゼミのカリキュラムの1つです。


裁判ウォッチング

−千葉地方裁判所松戸支部法廷傍聴記
           
  バードウォッチング、ホエールウォッチングなどウォッチング流行(ばやり)です。11月24日裁判ウォッチングに行ってきました。軽々しく裁判ウォッチングなどと言うものではないと思われるかもしれませんが、今回のイベントの主催者の千葉県弁護士会松戸支部でいただいた資料が裁判ウォッチング担当部でまとめた「裁判ウォッチング」となっていました。決して私の造語ではありません。
  広報「あびこ」で法廷傍聴会の案内を見て、すぐ弁護士会松戸支部に申込の電話をしたがすでに満員、キャンセル待ちをしていたところに空きが出たとのことで、11月24日勇んで松戸駅の側の弁護士会館に駆けつけました。見学者は25名、まず数人の弁護士さんから刑事裁判の手順について分かりやすい説明がありました。

  ここで刑事裁判について受け売りですが、簡単な解説をしましょう。
  まずは被告と被疑者という言葉から。オーム事件と和歌山の毒入りカレー事件を例に取ると、和歌山の事件はまだ裁判にはいたっていませんが、オーム事件では多くの被告人の裁判が同時進行中です。ちなみに林真須美容疑者は毒入りカレー事件については、ついに再逮捕はされましたがまだ起訴されていないため被疑者、起訴されると被告人になります。「容疑者」という言い方が一般的に使われていますが、法律では「被疑者」が正しい呼び方だそうです。

裁判(公判)の手順                     

(1)冒頭手続き 
    ・人定尋問
     ・検察官の起訴状朗読
        ・黙秘権告知
        ・罪状認否
(2)証拠調べ手続き
        ・検察官の冒頭陳述
        ・犯罪事実に関する立証
        ・被告人質問
        ・情状に関する立証
(3)弁論手続き
      ・検察官の論告・求刑
        ・弁護人の弁論
        ・被告人の最終陳述  (4)
(4)判決の宣告 

  次に傍聴する2つの事件の説明がありました。その後10分くらい歩いて小高い丘にある千葉地方裁判所松戸支部へ移動しました。いよいよ裁判の傍聴です。


1.道路交通法違反−酒気帯び運転

  最初の事件は酒気帯び運転の道路交通法違反の事件です。被告人は造園会社の役員をしている50前後の男性です。車で通勤しており、家の近くで飲んで帰る途中検問に引っ掛かったようです。酒気帯び運転は通常略式裁判で処分され刑事事件になることは少ないのですが、過去酒気帯び運転で罰金を3回も払っているため、悪質とされて刑事裁判にまわされたようです。

  法廷は正面の高いところに裁判長が座り、左に検察官、右に弁護人がお互い向き合う位置を占めていました。裁判官は裁判長1名、小さな事件の裁判は裁判長1人であたることになっているようです。被告人は裁判長の正面に座っていて、裁判長と被告人との間には椅子がおかれています。後で分かったことですが証人が尋問される時はその椅子に座りました。それ以外に書記官と廷吏が1名ずつ陪席していました。

  まず人定尋問では裁判長が被告人の住所、氏名、生年月日、会社名、役職などを聞き,人違いでないことを確認します。次に検察官が被告人の起訴状を朗読し、何時、どこで、酒気帯び運転をしたかを読み上げました。その後裁判長が被告人に黙秘権があることを告知し、被告人がしゃべったことは有利不利に関わらず証拠として取り上げられることを知らせました。その後裁判長は被告人および弁護人に対し起訴状の内容が違っているかどうか確認しましたが、この事件では事実関係では争いようがなく、当然のことながら起訴事実を認めました。ここまでが冒頭手続と言われる手順です。

  次に証拠調べ手続に入りました。検察官の冒頭陳述では、これから証拠によってどんなことを証明しようとするか説明します。ここでは酒気帯び運転の状況、いかに悪質であるか、再犯の可能性もあるということの証明です。犯罪事実に関する立証では、まず取り調べた警察官の調書が読み上げられました。捕まった時の状況や呼気の中に認められたアルコールの量などです。あとで問題になったのは、被告人が言ったとされる「2度と酒気帯び運転はしないと約束はできない」という言葉です。そして裁判長が調書の事実や酒を飲んだ状況、過去の罰金刑、家族や周囲の人からの注意などについて被告人に尋ねました。

  犯罪事実に関する立証の2つめは証人の尋問です。証人には被告人の奥さんが呼ばれました。まず証人が事実を述べる旨の宣誓をしたあと、尋問は裁判長が行いました。奥さんはこのような席に呼ばれしかも運の悪いことにたまたま大勢の傍聴人が後ろで聞いているという事態にかなりショックを受けているようでした。質問に対して答える声が小さくよく聞き取れません。裁判長からもっと大きな声でと注意されました。奥さんの話では被告人は今回捕まるまではよく酒を飲んで帰ったこと、注意してもいっこうに聞かなかったこと、捕まった後は飲んで帰ってはこないこと等を証言していました。途中から泣きながらの証言でした。

  その次は弁護人が被告人質問を行います。被告人は反省している、その後は飲んで運転していない、飲む時は一度家に帰ったあと徒歩で行く、などと供述しました。弁護人はここで情状酌量を引き出す情状に関する立証を行います。

  最後が弁論手続(最終弁論)です。まず検察官が論告・求刑を行いました。懲役3ヵ月です。被告人は交通法規を守ろうとする気持ちは薄い、再犯の可能性がある、厳罰を望みたいというのが懲役3ヵ月求刑の理由でした。そのあと弁護人の弁論が行われ、被告人は十分反省しているので、執行猶予を望みたいと述べました。最後に被告人が、十分反省しておりその後は酒を飲んで運転したことはない、寛大な判決をお願いしますと大きな体を縮めながら小さい声で裁判長に頼みました。
  即座に判決があり、被告人を3ヵ月の懲役刑に処する、刑の執行を3年猶予する、裁判費用は被告人の負担とするとの判決が下りました。
  被告人と証人の奥さんは傍聴人の視線を避けるようにそそくさと退出しました。裁判が始まってちょうど1時間がたっていました。

  後で再び弁護士会館に戻り、担当の弁護人を務めた弁護士から解説がありましたが、被告人はせいぜい行政処分で済むだろうとたかをくくっていたらしく刑事事件で起訴されたのに驚いていたとのことです。酒気帯び運転でも悪質な場合は刑事事件として起訴されるので皆さんも注意して下さいと警告されました。問題になった「2度と酒気帯び運転をしないと約束はできない」の発言は、弁護士の推測では、警官が「これからの長い人生に1度も酒を飲んで運転しないなどということは言えないよな」という感じの誘導尋問に思わず「はい」と言ってしまったのではないかとのことでした。そう言われた時にそう思っても、絶対にうんと言わないことが肝心のようです。
  なお被告人が負担する裁判の費用は国選弁護人の費用と証人喚問に関する費用で、弁護人の費用は大体8万円〜10万円位だそうです。


2.強盗および窃盗

  2番目の事件は、強盗および窃盗犯の裁判でした。被告人は手錠をかけられ2人の警察官か看守のような人に両脇に挟まれて入廷してきました。さっきとは違った重々しい雰囲気です。裁判長は替わりませんが、検察官と弁護人は入れ替わっています。
  被告人は勤務先の伊豆のホテルで150万円と90万円の現金を2回にわたって盗み、その後松戸のビデオショップで店員をビールビンでなぐって9万円強奪し、約1年半ほど逃げていたのですが、逃げ切れなくなり上野の交番に自ら出頭して逮捕されたとのことです。

  裁判の手続は、最初の事件と同じ手順で進められました。証拠調べ手続きの検察官の冒頭陳述で、被告人がなぜこのような罪を犯すにいたったか、どのようにして犯行が行われたかが次々と明らかになっていきます。被告人は元々お金にだらしがなかった上にタイ人やマレーシア人のホステスに入れ揚げて、消費者金融に多額の借金があったようです。顔をを見るとそんな罪を犯すような感じではなく、気の弱そうな青年に見えました。
  証人として被告人の父親が召喚されていましたが、その言葉によると以前はまじめで成績優秀な子供だったとのこと、ずるずると自分に負けて借金を重ねていったそうです。父親も600万ほど借金の尻拭いをしており、聞いていてお父さんがとてもかわいそうとの感じを受けました。

  検察官の求刑は懲役5年6ヵ月でした。最後の弁護人による弁論では、被告人が反省していること、被告人はビールビンで殴った後「ごめんね」などといっているように気が弱いだけの人間であること、自ら出頭したこと、まだ将来のある青年であることなどから寛大な判決をと裁判長に要望していました。
  裁判長から判決は2週間後の12月8日になることを宣言して裁判は終わりました。

  裁判ウォッチングは、裁判など自分には関係ないことと思っていた私に、いつ巻き込まれるか分からない、以外と身近なものであることを感じさせてくれました。
  なお、裁判はプライバシーに重大な影響を与えるケースを除いてはいつでも見ることが可能とのことです。


船橋市ケア・リハビリセンター見学記

  11月18日我孫子市の社会教育ゼミのバス研修で、船橋市にある船橋市リハビリセンター、ケアハウス市立船橋長寿園、船橋市東部在宅介護支援センター、特別養護老人ホーム第2ワールドナーシングホームを訪問しました。当日は未明にしし座流星群が見られるとのマスコミの騒ぎに乗せられて、午前4時に起きたため眠いのを我慢しての参加でしたが、やや寒かったものの快晴に恵まれてすばらしい研修旅行となりました。参加者は社会教育ゼミの受講者40名弱でその内男性は5名、ここでも女性中高年パワーに圧倒されました。

  上記4つの施設は船橋市のほぼ中央の、周囲を住宅と田園に囲まれた静かな環境に建てられた1つの建物に入っていました。その建物は4階建てのいわば双頭のビルで、最初の3つの施設は向かって右側に、特別養護老人ホームは左側に収容されています。リハビリセンターは今年の10月に、その他は4月にオープンしたばかりの真新しいピカピカの施設です。ここではそのうちのリハビリセンターとケアハウスについての感想を述べてみましょう。
  建物の構造と内装はデンマークのオーデンセにある施設に倣って造られていました。落ち着いた木目を基調に明るい暖色に彩られています。
  リハビリセンターは1階の全部と地下1階の一部を占めていました。1階は運動療法室を中心に作業療法室、手工芸室、ADL(日常動作訓練)室、言語療法室、カルチャー室などが周囲に配置されています。運動療法室はいろいろなリハビリ用具が置かれていましたが、それでもエアロビクス教室が開けるくらい広々としています。4階のガラス張りの屋根まで吹き抜けになっており、夏の暑い日などにはガラス屋根を移動式の布で日光を遮ることができるようになっていました。2階の廊下からはテラスが張り出しており、1階の運動の様子を見ることができます。まだオープンしてから日が浅く利用者が少ないため、その日は実際のリハビリの様子を見ることはできませんでしたが、このようなすばらしい施設でリハビリをすれば回復も早まるのではないでしょうか。

  地下1階にはリハビリプール、サウナ付きの浴室、音楽療法室などがあります。リハビリプールは円形の手すり付きのプールで、温水の中を歩いたり泳いだりして機能回復を図るために利用する目的ですが、付添いに必要な人手が足りないためまだ利用していないとのことでした。
  リハビリセンター利用の条件は、60歳以上でリハビリセンターに入所または通所することにより自立した生活がより一層可能となる人となっています。
  利用料は入所の場合は食事込みで月61,280円、通所の場合は1250円と信じられないくらい安い料金です。

  ケアハウスとは介護が必要な特別養護老人ホームと違い、自炊ができない程度の身体機能の低下が認められるかまたは高齢等のため独立して生活するには不安が認められる人で、家族による援助を受けることが困難な人が入所する施設です。ただ、寝たきりになったり、痴呆になったりすると出なければなりません。
  2階から4階がケアハウスの居室となっており、30の単身居室と5室の夫婦居室があります。2階にはそれ以外に4室のリハビリセンター利用者のための個室もありました。

  食事を取るためのカフェテリアと浴室はリハビリセンターと共用です。居室はすべて板張りでキッチンとシャワー、トイレ付き、家具は自分のものを持ち込むようになっています。食事はカフェテリアで用意されますが、キッチンでお湯を沸かしたり簡単な食事を作ることもできます。キッチンは火が出ないよう電気式の加熱器で、車椅子でも利用できるよう手で触る必要があるものは上下に動くようになっていました。すばらしい施設なので当然満室かと思いましたが何室か空室がありました。係の人に聞いたところ、ここに入所できるような人は自宅でも生活できなくはないため、下見に来た人の中には近所付き合いを断ちがたい人や環境が変わるのを嫌がる人なども多く、まだふさがらないとのことでした。
  ケアセンターの利用条件は、身体や家庭の条件のほかに、60歳以上で市内に引き続き3年以上住んでいる必要があります。
  利用料は収入額に応じて異なり、食事込みで1人64,770円から127,670円の12段階に分かれています。

  これから高齢者はますます増加します。我が我孫子市にはリハビリセンターやケアハウスはまだありません。このような施設がどの市内にも作られることを願って船橋市を後にしました。

 

 

                

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